------------ 早紀の場合? ------------ 「ふぁ〜、やっと終わった・・・」  白鳥は感慨深げにそう呟くと、大きく伸びをした。 机の上では放り投げられる形となった鉛筆やパステルの類が弧を描いている。  新学期早々の課題を片付け、自身に充満されていた緊張感が 伸びと共に空中へと放出しているかのようだった。 もっとも、ただでさえ最近は寝不足気味だったのもあって、 後に残るのは充実感よりも疲労の方になってしまうのは仕方が無いというものだが。 ふと、壁の時計を見上げると、時計の針は2時を指していた。 課題に手を付けた昼頃から既に半日近い時間がたっていることに気付くと、 驚きや徒労感と共に、何だか自分の集中力の持続が少しうれしくも感じられる。 作業への没頭、そしてそれをやり遂げた、という事実が充実感を高めてくれるのだ。 しかし、それと同時に襲ってきた現実的な疲労を否定することなど出来そうもなかったが。 「・・・お腹空いたな・・・」 と、白鳥は自分の腹部を押さえた。昼、夕と何も食べていなかったのだから、当然だろう。 こんな時間に食事を取るということは、あまり褒められたことではないのだろうけれども・・・ そう感じつつも、自身の中で喚きたてている食欲のサイレンは、睡眠で誤魔化す事が出来そうなものではない。 「・・・確か、炊事場ならご飯とお味噌汁が常備されていたっけ・・・」 と呟くと、長い時間座ったままでいたのもあり文字通りに重い腰を上げ、炊事場へと向かった。   炊事場へと向かうほんの数10秒の間で、白鳥は身体が、自分でも意外なほど空腹を訴えていることに気付いた。 それはこの直後に癒すことが出来る、と考えれば意外と心地の良いものであったし、 連想すれば、その食事を用意してくれている少女の顔を、強く思い出させてくれるものでもあった。  (梢ちゃん・・・) 心の中で少女の名前を呟いただけで、精神と身体を襲っていた疲労や空腹も残滓すら残さずにかき消され、 多幸感としか言い様の無い感情で埋め尽くされていく。 白鳥が炊事場の異変に気付いたのは、自分の恋人である少女に強い感謝を抱いた直後のことだった。   炊事場のドアから、明かりが漏れている。 (こんな時間なのに誰か居るのかな・・・?)   扉の向こうで、こちらに背を向けキッチンと向き合っている少女の姿は、 白鳥にとっては見覚えのありすぎるものだった。 (梢・・・ちゃん?) おそらく、トイレか何かに向かう際に、白鳥がまだ就寝せずに作業を続行しているということに気付いたのだろうか。 そのような場合彼女がどのような行動をとるか。彼女の一番近くに居る白鳥にわからないはずはなかった。 梢の優しさ、健気さ、いたいけさ・・・そして、その心と身体の暖かい感触が、白鳥の内部で甦っていく。 「梢ちゃ・・」 思わず、駆け寄ってその身を抱き留めようとした、その時に、白鳥は異変の真の正体に気付いた。 彼女の髪型が普段とは違うのだ。   長い後ろ髪をうっとおしいと感じ、ポニーテールにまとめた少女の姿。白鳥の目はそこに釘付けにされていたが、 少し視線をずらせばキッチン周りも梢の扱い方とはまったく違う、乱雑な状態となっているのが目に入ったはずだった。 炊事場のドアを開けたところで思わずその身を固める白鳥。 梢と恋人関係になってからというもの、「彼女」と会う機会が無かったわけではないが、 やはり彼女に対してはどう対応していいのかがまだ、よくわからないのだ。 しかし、当の彼女の方はというと、白鳥が声を上げていたにもかかわらず、彼が炊事場へと入ってきた、 ということにすら気付いていないようだった。 おそるおそる、彼女の様子を伺う白鳥。見れば、やはり彼女は何か料理をしているようだった。   「あ・・あの、早紀ちゃん?」 だが、相当料理に没頭しているらしく、彼女―赤坂早紀は、白鳥に気付く素振りすら見せない。 「あ・・あの・・」 白鳥がその手を肩に伸ばそうとする―と、 「な、なにしやがんだーーっ!!」 と、白鳥に向かって、しっかりと保持された包丁ごと右手が振り落とされてきた。 「う、うわあっ!?」 危うくその一撃を受けそうになった白鳥だったが、すんでのところでその動きが止まり、 「し・・・白鳥・・・?」 硬直した早紀が白鳥の顔を凝視する。 徐々にその視線をずらしていくも、それに対応するかのようにその顔が赤く染め上がっていくのが、 白鳥にもはっきりと見えた。 顔が、これ以上ないというぐらいに紅潮したのと同時に、早紀の身体は再び白鳥に背を向け、 キッチンに対面すると、 「な、なにしにこんなとこに来たんだよ・・・っ?」 と、そのままの姿勢で、白鳥には顔を向けずに話しかけてくる。 そんな彼女の態度に、白鳥は戸惑わずにはいられなかったが、彼女の言葉に向き合ってあげることを 第一に考えた。早紀もまた、白鳥にとって最も愛する女性であるということには変わらない。白鳥にとって、 それは当然とでも言うべきことなのだから。 「なにって・・・課題が終わったからさ、何か食べようかと思っ・・・」 「か、課題が終わった!?」 白鳥の言葉が終わる前に、早紀はその身を向きなおして叫んだ。まるで詰め寄られているかのような 姿勢に白鳥の戸惑いはさらに大きなものとなる。 「う、うん・・・だから、炊事場でご飯でも食べようかとおもっ」 「て、てめえ!だ、誰が課題を終わらせて良い、なんて言ったんだよ!?」 「え、ええっ!?」 これには、流石の白鳥もどう対応していいのかがわからなくなる。 (そんな無茶苦茶な・・・) 沈黙が訪れ、お互いそのまま動けなくなってしまう。 少しの間をおいて、早紀は白鳥の両肩に置いていたその手を下ろした。彼女も少し落ち着いたようであった。 「な、なんだよ・・・人が、せっかく・・・」 だが、その声は、彼女のものとは思えないほどか細く、消え入ってしまいそうなものだった。 見れば、彼女の手元には、おにぎりをはじめとして、玉子焼きや鳥のから揚げなどが並んでいる。 もっとも、どれも梢が作ったものとは比べ、お世辞にも整った形をしているとは言えなかったが。 「これ・・・早紀ちゃんが・・?」 「ま、まあな・・・で、でも、ちょっと失敗したから・・・こ、これは捨てるやつなんだよ」 早紀の声が、先ほど以上に焦りを募らせていく。その必死な手振りは、おそらく、 白鳥にその「料理」を見せたくないのだろう。 「・・・・・・」 「な、なんだよ・・・?」 「じゃあ、さ。これ、僕に貰えないかな?さっきも言ったけど、ちょうどお腹空いてるし」  その言葉は、早紀にとっては思いもよらぬものだったのだろう。一瞬、きょとんとした表情を浮かべるも、 彼女は即座に白鳥に対し怒鳴り声を上げる。 「ば、バカ!!なに言ってやがんだよ!?て、てめえには、もっとちゃんとしたのを・・・作っ・・・作って・・・」 怒鳴り声が、いつしか消え入りそうなものになる。 「?これ、僕に作ってくれていたの・・・?」 追い討ちをかけてくるかのような白鳥の言葉に、「しまった」というような顔を見せる早紀。 当然、次の瞬間にはその言葉を否定しようとする。 「そ、そんなわけ・・・」 だが、その言葉は途中で途切れた。観念した、というような表情で早紀は白鳥に向き合う。 「・・・その、な。本当は、もっとよく出来たのを白鳥に食わせてやりたかったんだよ・・・ だけど、どうしてもこんなのしかできなくて・・・だから、やっぱりあたしには無理だなーっていうことでさ、 うん、だから、その・・・白鳥だって、こんなもん、本当は食べたくない、だろ・・・?」 意外なほど素直な早紀の言葉。その真っ直ぐな思いに答えるかのように、白鳥は優しく声をかける。 「そんなことないよ。だって、これは僕の恋人の女の子が、一生懸命作ってくれたんだから」 「な・・・っ」 少し引いていた紅色が、再び早紀の顔を染めていく。 「ば、ばばばばばばば、ば、ば、バカ野郎っ!!な、なに言って・・やがんだよっ!?だ、だったら・・・ なおさら、白鳥にはこんなもの、食わせられないってば・・・」 「だから、そんなことないって」 そう言うと、白鳥はから揚げの一つを摘み上げ、自分の口へと運ぶ。 少し醤油の味が効きすぎている、とも感じたが、決して不味くはなかった。 まだ熱い、油分の踊る香ばしい衣の食感は、料理が得意分野とは思えない早紀が、 わざわざ作ってくれたものである、ということの証拠であった。 「うん、美味しいよ」 「ほ、本当・・か?」 白鳥の言葉にもかかわらず、早紀の表情は不安でいっぱいだった。 そんな彼女に対して、白鳥は笑顔で応える。 「うん。お世辞なんかじゃなくて、本当に美味しいよ、これ」 そう言うと、白鳥はつまみあげたから揚げを早紀の唇の手前へ運ぶ。早紀は、それを躊躇いながらも口に含んだ。 「ほら、ね」 「ば、ばか・・・こんなしょっぱいもの食べたら、身体に悪いだろうが・・・ で、でも、まあ、てめえがこんなんでも良いって言うんなら、まあ、仕方ない・・・な・・・」 いかにも美味しそうに早紀の料理を食べる白鳥に対し、早紀もまた、照れながら、ではあるが笑顔を見せる。 白鳥には、その表情が堪らなく愛しかった。 「早紀ちゃん・・・」 「な、なんだよっ!?あたしの顔に何かついてるか!?」 「う、ううん。ただ、早紀ちゃんが可愛いなあ・・・って」 「だ、だから、てめえはどうしてそういうことばっかり言うんだよっ!? ・・・あー、うー・・・そ、それよりな、こんなところで立ち食いってのも、なんだし・・・さ・・・その」 その言葉に含まれている意味を白鳥がどれだけ汲み取れたのかは、早紀にはわからなかったが、 白鳥の返答は彼女の望んだとおりのものだった。 「じゃあ、課題の後片付けもあるし、僕の部屋でも・・・いい、かな?」 早紀は無言で頷いた。 「ごちそうさま、早紀ちゃん」 元々、白鳥一人分だった夜食である。早紀も食事に加わったこともあって、あっという間に無くなった。 「ま、まあその、白鳥がうまかったてんなら、作った甲斐もあったっていうもん・・だな、うん」 まだ、声こそたどたどしい部分があったが、早紀の表情は明るさに満ちたものになっていた。 「あはは、ありがとう。早紀ちゃん」 そう言いながら、課題の後片付けをこなす白鳥の姿を、早紀はじっと見つめていた。 「・・・」 しばらくの間は、そうして無言だった早紀だったが、何かを決心したかのように、白鳥に対して口を開いた。 「な、なあ、白鳥・・・その、おまえ、さ・・・し、したことって・・・ある、よな・・?」 「・・・え?す、するって・・・な、なにを・・?」 「ば、ばか!そりゃあ、その、あれ・・・だってば」 その言葉は、白鳥にとって完全に想定外のものだった。 ましてや、なんと答えれば良いものか。まさか、早紀の身体を抱いた事があるなどとは言えまい。 (・・・え?) と、そこで、白鳥は現在の梢のそれぞれの人格が、記憶を共有化しはじめている状態にあるらしい、 ということに気付いた。 だとすると、梢と自分の体験を、彼女たちはどのように受け止めているのだろうか? そのような白鳥の思考を止めるかのように、早紀は続ける。 「白鳥・・・あたしだって・・・白鳥のことが好きなんだ・・・から、な・・・」 そのまま、白鳥の身体に早紀の身体がのしかかってくる。 「さ、早紀ちゃん・・・」 既に、いつでも自分の中で反芻することが出来るほどに味わった感触だった、が、今この時のそれは、 まったく違う意味を持ったものであった。 「アタシとは・・・やっぱり、嫌、だよ・・・な?」 おそらくは、この言葉に対して白鳥がどう答えてくれるか、早紀にしてわかってはいたのだろう。 だが、こうしてみることが彼女なりの照れ隠しなのだ。 そして、そのまま当然のように返ってくる白鳥の言葉を耳にする。 「そんなことない、よ・・・?」 早紀は、自分がうれしくて仕方が無い、という状態にあるということを、自覚する。 体温が上昇しているかのようだった。 「・・どうしてそんなに優しいんだよ・・・ばか・・・」 早紀の身体が白鳥の前に回りこむ形に流れ、そのまま唇と唇が重なり合う。 その動きが信じられないほど自然なものだったのが、早紀には少し意外に感じられた。 時間がゆっくりと流れていく。まるでスローモーションのように、ゆっくりと。   キスを終えると、白鳥はその手を早紀の身体へと伸ばしていく。 白鳥とて、早紀との関係を、どんな形になるかは別として― はっきりとしたものにさせたいと考え、その結果、こうして彼女を部屋へと誘ったのだ。 このような状況は、それほど予想外ではなかった。 「早紀ちゃん・・・」 対する早紀にしても、先ほどのようなアプローチを決行するのに、どれだけの決心を必要としたのか。 白鳥は、それを裏切るようなことはしたくなかった。 「ふゃぁ、白鳥・・・そ、そんな・・・ふ、服、脱がそうとするな・・ってばあ」 その言葉は、先ほどに比べれば柔らかなものになっていたが、 男性を拒絶するかのような身体の反応の方は、頑ななものだった。 「ご、ごめんね。早紀ちゃん」 白鳥は、自分がうっかりしていたという事に気付く。自分にとってはある程度慣れた行為であっても、 相手となる少女には―例え、梢と同じ身体を持って、同じ経験の記憶を持っていたとしても― 未体験となるものなのだ。ましてや男女の関係、というものに長けているとは思えない早紀である。 それこそ、扱いには慎重にならねばならなかったのだ。   「ば、ばか・・・変な所で気なんか使うなよ・・・」 そんな彼女が自分との関係を素直に認めようとしてくれている。そのために慣れない包丁を握り、 勇気を振り絞って身体を重ね合わせてきたのだ。 「早紀ちゃん、好きだよ・・・」 その思いに、白鳥は優しさで応えたいと思った。早紀の身体へと這わせた両手の動きを緩ませ、 小動物の身体をさするかのような力加減でその全身をなぞっていく。 「は、はぁ・・」 「大丈夫。ほら、痛くしないよ?」 少しずつではあるが、早紀を安心させていく。そして、頃合を見て白鳥の手が、再び早紀の服へかかった。 「早紀ちゃん・・・いいん・・だよ、ね?」 「・・・し、白鳥が、あたしのこと好きってんなら・・・  そ、そりゃ、ど、どんなことだって、し、し、してやろうじゃねえか・・・」 精一杯強がったその声が微笑ましくて、白鳥は思わずその手を止める。 「はは。ありがとう」 「な、なんだよ・・・い、いいから、するなら、はや、く・・あっ」 白鳥の手が、再び早紀の服を捲し上げる。その手は、そのまま早紀の脇腹へと流れていき、 経験浅い少女の身体を直に味わおうとする。 「はっ・・・・あ・・」 早紀の息が激しくなっていく。白鳥は、まるでその鼓動にあわせるかのように両手を早紀の胸に伸ばしていく。 梢のものと(当然ではあるが)変わらない、豊満な感触が手のひらに広がった。 「しら、と・・・そんなと・・あっ」 「はぁ・・早紀ちゃん・・・っ」 白鳥は、彼女の名前を呼ぶと、その舌を早紀の臍付近に這わせる。えもいわれぬ感触に襲われ、 思わず早紀の身体がビクっと軽く跳ねる。 白鳥の舌は、そのまま早紀の臍にはまり込むような形で流れていく。 「ば、白鳥・・・」 早紀は、白鳥の予期せぬ動きに、最初は戸惑ってはいたが、すぐにその行為の心地よさにその身を委ねていく。 その心地良さを、白鳥は徐々に快楽へと変貌させていく。早紀の胸を、その心臓の鼓動を確かめるかのように、 優しく包んでいた左手は、その動きに激しさを加えさせていき、胸から離れていった右手は、早紀のスカートを脱がし始めていた。 「し、しらとり・・・そ、その・・」 「ん、どうしたの?早紀ちゃん」  早紀がまたしても不安に襲われている、というのが白鳥には一見してすぐに見て取れた。当然だろう。 自分の身体はその行為を記憶確かに記憶しているというのに、 自分自身は、その体験自体の感覚がまったくわからないのだ。 これで不安や違和感を覚えないのはおかしいだろう。 今回のことにしても、おそらくはこういった自分の中の奇妙な感覚と折り合いを付けていられなくなった早紀が、その解決策として考え出したことなのだろう。 白鳥は、そんな彼女に対して、自分の出来ることを精一杯してやりたいと思う。 早紀の腹部から離れた白鳥の顔は、早紀の顔へと接近していき、再びその唇を重ねる。 「あ・・ふぁ・・・」 「早紀ちゃん・・・」 耳元で、大丈夫だよ。優しくしてあげるからね。と優しく囁く白鳥の声。 早紀は、自分が不思議なほど安心しているのを感じた。 それは、この身体が白鳥のことを心底愛しているという事だった。 早紀の、安らいだ表情をまた確認すると、白鳥は、その顔を彼女の柔らかな胸へと埋めていった。 「あ、あっ・・・」 その胸を覆っていたブラジャーを、そっと上にずらすと、白鳥の舌はその曲面を滑っていった。 既にスカートを脱がし終えていた左手もまた、下着に親指を引っ掛ける形となっている。 だが、早紀の身体は、心は、 もう抵抗はしなかった。 「し、白鳥・・あんまし、見るな・・・ってばあ・・・」 早紀の恥らった声が、白鳥を扇情的な気分にしていく。 「わかってる・・・よ」 「じ、じっくり見ようとしてたら、ぶ・・・ぶっとばす、からな・・・」 「わかってる、ってば」 クス、という笑みを浮かべる白鳥に、早紀は思わずどきりとする。 自分がどれだけこの男性に惹かれているのかを実感する。 「あ、あぁ・・・で、でもな、その、し、白鳥がどうしても、ってんなら・・・  その、あたしはそんなに嫌じゃ・・・あっ」 白鳥に、少しでも良く思って欲しい、 という思いから紡ぎ出されたその言葉はしかし、襲ってきた強い快楽にかき消された。 白鳥は、早紀の乳首を唇で優しく包むと、先ほどよりもその運動にずっと激しさを増した舌で愛撫したのだ。 「ふぁあっ!し、しらと・・あっ!」 下半身を見ても、下着は既に太腿の辺りまで下ろされており、今はその太腿の感触を楽しんでいる白鳥の 右手が、すぐにでも早紀の剥き出しにされた恥部へと向かっていこうとしているのがわかった。 既に、暖かい心地良さは、熱い快楽へと成り代わっている。早紀の全身に流れる血脈が白鳥への愛情を 携えており、その全てがこの行為に強く反応しているかのようだった。 そして、白鳥は一呼吸置くと、顔を胸から離していき、早紀がその恥じらいから両足で閉ざしている下半身 へと向き合っていく。 「可愛いよ、早紀ちゃん」 「だ、だから、あんまし見るなってばっ」 「でも、そんなに嫌じゃあなかったんじゃないの?」 白鳥が少し意地悪く言い返した。 「う・・・だ、だけど・・そのな・・やっぱり、恥ずか・・・しい、んだよ・・・」 恥じらいに満ちた表情、言葉、態度。その全てが白鳥の早紀への愛情を強めていく。 早紀も、既に覚悟を決めているので、その両脚はいとも簡単に開かれる。白鳥は、まるで、 ひくひくと震えてるかのような、早紀の性器へと舌を伸ばす。 「ばっ・・・!き、汚いっ・・・てば・・・しら・・と・・・」 予測不可能なほどの快楽に襲われ、早紀はその身を小刻みに揺らす。 白鳥は、その早紀の様子を伺いつ つ、それに合わせて舌の動きを早めたり、 指を這わせたりして早紀の性感帯を強く刺激していく。   (思ったよりは・・・濡れてる、かな?) 白鳥は、早紀の身体が、梢の時とは比べても、男性を受け入れられるような状態になり難いということを 実感していたのだが、これならば、もう少し愛撫を続けてあげれば何とかなりそうだった。 「はぁっ!あ、あ、ぁぅあっ・・・」 早紀の息遣いが激しくなる。このまま行けば、おそらくは彼女を絶頂へと導いてあげることも可能なはずだ。 「早紀ちゃん」 「な、なんだ・・ょ・・・お・・・っ」 「そろそろ・・・いい、かな?」 「・・・・・・っ!」 早紀の表情が、再び不安の色を露にする。が、それは一瞬で終わり、すぐに先程の照れた顔が戻ってくる。 「ば、ばか・・白鳥とあたしはその、恋人・・・同士、なんだぞ・・・  そんなの、白鳥がしたいっていうんなら・・・ 良いに決まってる、じゃ・・ねえか」 顔を真っ赤にしながらも、精一杯の笑顔でそう言い切る早紀。 その可愛らしさに、白鳥も既に自分の欲情 を押し隠すことなどできそうになかった。 「早紀ちゃん・・・」 「ちょ・・待っ・・・そ、その前にもっかい・・・キス、してくれないか・・・?」 「うん。なんせ、僕の恋人の早紀ちゃんがしたいって言ってるんだしね」 「ば、ばか・・・」 互いの唇が、何度も何度も重なり合い、 「そ、そのっ、ふぁ・・・し、舌、からませて・・・・みた、い・・・」 「うん、早紀・・・ちゃんっ」 互いの舌が、卑猥な音を立てながら交わっている。 白鳥は、この状況に没頭しつつも、早紀と交わるための準備も忘れてはいなかった。 ズボンのチャックを 下ろし、既に滾った状態にある自分の性器を露出させると、 ゆっくりと早紀との体勢を整えていく。 一方の早紀は、濃厚なキスに全神経を委ねており、その事には気付いていないようだったが。 「ゅっ・・・ぷぁ、ん・・・白鳥・・もっと・・・あ・・・っぇ!?」 突如走った違和感に、早紀も、自分の下腹部に軽く押し付けられる形となっている白鳥の性器に気付く。 「し、しら・・・」 「早紀ちゃん、そろそろ・・・早紀ちゃんのことが、欲しいな」 「ん・・・・あ・・・白鳥の・・・あたしも・・・」 そう言いながら、再び舌を絡める行為を続行させる早紀。 それは、恥じらいと不安を隠し通しつつも、 白鳥を受け入れたい、という思いを伝えるサインだった。 「早紀ちゃん、行くよ・・・」 その言葉とともに、押し付けられただけだった白鳥の性器が、 早紀の性器へと埋没していくのが互いの目に 、確かに映っていた。 その光景と、いまだかって味わったことの無い快楽と、痛みに、早紀はその目をぐっ、と閉じる。 さらに、 白鳥の身体にしがみつき、再び舌を絡ませあうことで、 今にもおかしくなってしまいそうな自分を、必死にとどめる。 「早紀ちゃん。ほら、はいる、よ・・・」 「ぴ・・ぇ・・っぅ・・・っ・・・っく・・・」 早紀の呻くような声に、少し不安を感じた白鳥は、彼女に優しく囁いていてあげることを絶やそうとはしない。 「早紀ちゃん、大丈夫?痛くない?」 「こ、これぐらい、ぜんぜん・・・なんと・・っも、なっ・・・い・・・あっ」 早紀は、それに対し、精一杯の強がりと、白鳥の唇を求める行為で応える。 痛みや、初めての感触に対する違和感は消えなかったが、それ以上に、自分の身体がこの行為を完璧に 受け入れようとしている、という事実に気付かされる。 身体が、早紀という一人格に対して、すべての快楽をシャットアウトせずに流し込んでくるようだった。 (あ、あたしは・・・そんなことは関係なく、あたしだけの意思で白鳥を・・・っ) だが、だんだんと、そういったことを考えていく余裕すらなくなっていく。 自分の思考能力が、快楽で埋め尽くされていくのが、はっきりと自覚できた。 もしも、このまま一つのことしか考えられなくなってしまうのならば― 「し、白鳥っ!」 早紀は愛する人の名前を、口だけでなく、心の中でも、全力で叫ぶ。それが答えだった。 「早紀ちゃん・・・っ、早紀ちゃんっ!」 その声に応えるように、白鳥の動きも少しずつ激しさを増していく。 感触自体は、梢のものと同一だったが、自分の中で形になっていく実感は、梢とはまったく違ったものにな っていくのがわかる。ふと、セックスの際、男性はむしろ精神面で快楽を得るのだ。 というのは、こういうことな のだろうか、などと白鳥は考えた。 「はぁっあぅん・・・っ!あ、ぁ、ぁあっ!しらと・・・ふぁあっ!白鳥ぃっ!」 もはや、どれだけ意図的に身体が動いているのかがわからなかったが、 早紀の唇は、まるで唯一の行き先 がそこであるかのように白鳥の唇へと向かっていく。 「ふぁっ・・さ、早紀ちゃ・・・ん・・・っ」 舌を、性器を絡ませあいながら、二人は、まるで自分たちが水飴の様にドロドロに溶けて、 一つになって しまったように感じた。 もはや、どこからどこまでが自分の思考だったのかも良くわからないほどに。 「あ・・・はぁあっあっ・・早紀ちゃんっ!早紀ちゃんっ!」 白鳥の腰の動きも、当初の明らかに遠慮したゆっくりとした挿入行為とは完全に別物の、激しいものになっている。 快楽は、すでに二人を絶頂の状態にまで高めている。こうなると、あとはその終わり時を迎えるだけだった。 「あん、ああっ!白鳥っ、白鳥っ・・・っふぁ、あ、きゃふっ、ぁ!  白鳥っ・・・あ、あた・・・し・・・もうっ、もう・・・っ!!」 身体の中の全ての器官という器官が、快楽で沸騰してしまいそうだった。達するまでに、もう時間が無いと いうことが二人には良くわかる。 「早紀ちゃんっ!僕も・・・僕も!早紀ちゃん・・・一緒に・・・っ!」 「ん、あっ!白鳥っ!いっしょ・・・いっしょにぃっ・・・!!」  一瞬、何もかもが、真っ白になったような気がした。   だが、その靄のような淡い白が薄れていくのに従って、白鳥は自分の下腹部が強く脈打っているのを感じ、 早紀は、まるで受胎したかのような子宮の熱を感じた。 意識は澱んだままだったが、白鳥も早紀も、自分の名前を囁き続けてくれる、愛しい声を、確かに聴いていた。 その、絶頂に達した快楽の残滓を、ゆっくりと味わいながら、二人は徐々に落ち着きを取り戻していった。 「・・・ふぅ・・・早紀ちゃん・・・その、痛くなかった?」 「お、男なら、そんな小さいこと、気にするなって・・・」 「そ、そう言われても・・・やっぱり、僕としても、大好きな早紀ちゃんには  気持ちよく・・・なって欲しいから、 ね・・・あ、で、でも、初めてだからそんな、気持ちよく、なんて・・・」 「あー、もういい、もういいって。あたしは・・  その、あたしだって・・・白鳥が満足してくれたんならいいんだからさ」 そのまま、先ほどまでの出来事を、互いに反芻する二人。言葉は自然と少なくなったが、 決して居心地の 悪いものではなかった。 「な、なあ、白鳥・・・」 静寂を破るかのように、早紀が話しかける。 「?どうかした?やっぱり、痛かったかな・・・?」 「な・・・そ、そういうわけでもないんだけど、さ。ちょっと、腰がしびれたっつーか、ほんのちょっとだけ、  疲れちゃって、さ・・・っと・・その、今夜は・・・ここで寝ても、いい、か?」 少し甘えたかのような声に、自分でもわざとらしすぎるんじゃないか、というような不安を感じる。 「あ、い、嫌だよな!?せっかく、課題終わらせて寝ようと思ったのに、 その、あたしが邪魔しちまったわけだしよ・・・」 全身で焦りを見せる早紀に対し、白鳥は当然のように笑顔で返事を返す。 「そんなことないってば。早紀ちゃんと僕は恋人同士なんだから、  少しでも一緒にいたいって思うのは当然 のことだよ。じゃあ、今夜はずっと一緒に居ようね」 白鳥の優しい声に、早紀は自分の心が、溢れそうなほどに満たされていくのを感じる。 そして、そんな白鳥に対して、出来る限りの笑顔で応じる。 「まったく・・・そうやって歯が浮くようなことばっかり言いやがって・・・」 そう言いつつ、白鳥の身体に飛び掛るかのように抱きつく早紀。 「さ、早紀ちゃんっ」 「でも・・・あたしは、そういうところもひっくるめてお前のことが・・・好きだから、な」 白鳥の胸の中で、顔を上げた早紀は最高の笑顔を向けていた。            終