------- D.D.R. ------- 0/ 「きみが、好きだ」 彼が―――白鳥さんがその言葉を口にした瞬間、私は時が止まったような錯覚を覚えた。 ―――――……え? 混乱してその意味が理解出来ない私は、 その言葉を何度も―――咀嚼するように―――反芻する。 ―――キミガ、スキダ。 好き? 白鳥さんが? ―――…私を? その「事実」を理解した瞬間。 私は、これ以上無いであろう程の喜びをその表情に顕していた。 嬉しかった。 ―――私も。 永い。 永かった想いが、漸く叶う。 ―――私も、貴方の事が。 「私も―――」 そう、言いかけた瞬間だった。 「――――……!?」 私は、見てしまった。 白鳥さんの数メートル後方、私の正面。 廊下に佇み、こちらを―――殊に私を―――凝視する、彼女の姿を。 その瞳に在るは、 驚愕―――疑念―――嫉妬、そして、憎悪。 私はその場から動けなかった。 告白を受けた喜びなど、もう微塵も残っていなかった。 ―――どうして? その口元が、そう動いたような気がした。 彼女の―――梢ちゃんの、歪んだ口元が。 0.7/ 「……………」 朝。 時計を見ると、まだ6時前。 春のそれにしては少し強めの陽射しも、カーテンを通して好い具合に中和され、 凡そ季節感などあるとは思えないこの部屋にも、太陽は律義に春の訪れを告げてくれている。 「…………夢」 確認するように呟く。 夢。 そうだと理解ると、私は安堵とも失望ともつかない溜息を吐いた。 真っ青な春空も一瞬にして曇るような、暗鬱で深い溜息。 季節感が無いのは、どうやら私の方らしい。 「……………」 また。 ―――また、あの夢だ。 最近、立て続けに同じ夢を見る。 私の思い付く限りの、一番最悪な夢――― 「―――なんで」 私は泣きそうな声で呟き、頭を抱えた。 「『なんで』だって?」 ――――え? 聞き覚えのある声。 声のした―――ドアの方―――を向く、と。 其処に佇んでいたのは、 紛れも無い、梢ちゃんの姿――― 「梢、ちゃん……?」 「往生際が悪い。理解っているくせに」 「―――……!?」 何を―――何を、言って…? 「悲劇のヒロイン気取りか?この偽善者め」 「…こ…ずえ、ちゃ―――?」 彼女の声には、感情が無かった。 それがかえって、彼女の感情―――恐らくは怨悪、その類―――を明々と表しているように、私には思えた。 「私達の邪魔をするだけでは飽き足らず、」 彼女の言葉は毒矢のように私に突き刺さり、鉤爪のように私の胸を抉る。 それは死刑宣告も同然だ。 何よりも残酷で―――何よりも、正しい。 「い…や……こず、え…ちゃん―――!」 やめて。 私は両手で耳を塞ぐ。 聞きたくない―――否、認めたくない。 何故? それは、彼女が「正解」だから――― 「今度は、私から大切な人まで奪おうとしている」 彼女の言葉は、 あくまで残酷に、正しく響く。 耳を塞いでも―――いや耳を塞ぐ程に、はっきりと。 当然だろう。 彼女の云っている事は、全て「事実」なのだから――― 「ちが…ちがう……私は…わた、し―――」 やめて。 認めたくない。 違う。 やめて。 お願い。 わかってる。 やめて。 最初から。 やめて。 私は。 やめて。 やめて。 やめて、やめて、やめて、やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて―――! 「お前は―――最低の人間だ」 1/ 「……………」 朝。 時計を見ると、もう9時を回っている。 春のそれにしては少し強めの陽射しも、カーテンを通して好い具合に中和され、 凡そ季節感などあるとは思えないこの部屋にも、太陽は律義に春の訪れを告げてくれている。 「…………夢、か」 私は小さく呟くと、ベッドから降り、立ち上がってカーテンを開けた。 温かな陽射しを全身に浴びながら、休日の朝、というモノを存分に満喫する。 「はぁ〜…いい天気です〜」 私は大きく伸びをすると、意気揚々とドアを開け、炊事場へと向かった。 ―――夢? 気にしませんよ、そんなモノ。 あとがき: という訳で、珠実話 「D.D.R.〜Dream/Dream/Reality〜」でした 何と言うか、意味の無い話ですね。 ラストについては色々な解釈が出来ると思います、多分 何はともあれ、読んで頂ければ幸いです では