---------------- あしなみそろえて ---------------- もうじき春だなぁ・・・ 専門学校の帰りに商店街を歩くと陽の光の暖かさにぼーっとなってしまう。 帰りに本屋に行って探してた本があるかみたら、阿甘堂でみんなにたいやきを買って帰ろう。 そう思い商店街を歩いていると見慣れた人物が目に入る。 「珠実ちゃん?」 「おや〜?白鳥さんですか〜」 「うん。今帰り?」 「そうですけど〜?」 「・・あれ?」 「何か〜?」 「いや・・その、梢ちゃんは?」 「やっぱりそう来ましたか〜」 「え、いや、ほら、いっつも一緒だから気になって・・・」 「梢ちゃん・・というか彼女はそこです〜」 「そこ・・?」 そうして珠実ちゃんが指を指したところを見る。 「・・・・・」 「こ、梢ちゃん?」 「・・・ずえ・・じゃ・・・い・・かも」 「え?」 「私・・は・・なつ・・かも・・・」 ―かも― まさか、今の彼女は・・・ そう思い彼女の瞳(め)を見る。その色は紺・・・。 「ひょっとして、棗ちゃん?」 「・・・ん・・・」 「いやはや〜ちょっと私が目を話している隙にトラブルに巻き込まれてしまって〜」 「トラブル?」 「はい〜いろいろと〜」 「ふうん・・・」 「・・・隆士・・君・・・」 「・・ん?棗ちゃ・・ん!?」 「あ〜!?また目を離していたら〜」 振り向くとそこにはメガネをかけた学生風の男三人に囲まれた棗ちゃんだった。 「な、棗ちゃん!」 「ヒュゥ彼女!マブイですね!」 「これから僕たちとナウなヤングに馬鹿受けなところにフィーバーしに行きませんか!?」 「・・・ぁ・・ぅ・・・」 「ちょっと!君たち棗ちゃんから離れ・・・」 「「「姐さーん!!!」 「・・・は?」 「姐さんじゃないっスか!」 「おひさしぶりっス!」 「あのツインテールのマブい子も姐さんのおともだちっスか?」 「ま〜た〜こ〜ず〜え〜ちゃ〜ん〜に〜手〜を〜だ〜そ〜う〜と〜し〜ま〜し〜た〜ね〜?」 ・・・今は棗ちゃんなんだけどね 「「「え?」」」 「ジャンジャンバリバリ・・・小宇宙が燃えてるDEATH〜・・・」 「か、勘弁・・・」 「覚悟です〜〜」 珠実ちゃんは学生風の男(1)に数え切れないほど当たった! 学生風の男(1)は死ん・・・じゃダメだよ! 「た、珠実ちゃん!殺しちゃ・・・」 「ぐわー!」 「ウボァーー!!」 ああ!学生風の男(2)・(3)が!! 「・・・命までは・・・取ってないです〜」 「おおう・・・」 「さすが姐さん・・・」 「相変わらずグレート・・・」 「・・・・棗ちゃん、大丈夫でしたか〜?」 「・・・・・は、・・・はい・・・あり・・・とう・・ござい・・す・・珠実・・さん・・・」 え?今、珠実ちゃんの名前を・・! 「お〜!?聞きましたか白鳥さん〜v」 「うん!棗ちゃん!すごい進歩だよ!」 「・・・うん・・助・・て・・貰った・・・から・・お礼は・・・言わな・・きゃ・・・だめ・・だから・・」 「いや〜、これは帰って桃さんに自慢できるです〜♪」 「そうだね。じゃあ棗ちゃん、帰ろうか?」 「・・・・」 「棗ちゃん?」 「・・・たい・・・かも・・・」 「え?」 「少し・・隆士・・君と・・・歩い・・て・・・みた・・い・・かも・・・」 「え!?僕と!?」 「おやおや〜。私はお邪魔ですか〜」 「え?いや、そんなことは・・・」 「あは〜?何いってるですか白鳥さん〜。せっかくの棗ちゃんからのデートのお誘いなんだから私がいるのも野暮です〜」 「でっでーと!?」 「当然でしょう〜?それでは棗ちゃん、気をつけるです〜白鳥さんは隙あらば棗ちゃんを食べるつもりですよ〜?」 「・・・ぇ・・?・・隆士・・君・・・本当・・かも・・?」 「うぇ!?そ、そんなわけ無いってば!た、珠実ちゃんも変なこと吹き込まないでよ!」 「冗談です〜♪」 相変わらず発言の一つ一つがアニメでは放送できないよ珠実ちゃん・・・ あ、これはこっちの話。 「ではではお先に〜」 「あ、うん・・じゃあね珠実ちゃん」 珠実ちゃんが去った後、その場には僕と棗ちゃんが残る。 「えっーと・・・」 「・・・・」 「行こうか?」 「・・・ん・・・ちょと・・待って・・欲しい・・かも」 「?どうしたの?」 「・・・・・・手・・・つな・・・い・・かも・・・」 「手?つ、つなぎたいの?」 「ん・・・」 「うん、じゃあ行こうか。」 そういって僕は棗ちゃんの小さな手を握る。 「・・・(ほうっ)・・・」 こうして、僕と棗ちゃんのデートが始まった・・・かも。(うつった) 歩き出したはいいものの、何処に行こうか見当もつかない。 「ねえ棗ちゃん」 「…何…?」 「棗ちゃんはどこに行きたいの?」 「私…?私…は…隆士…君…と一緒な…ら…どこ…でも…いい…かも」 「そ、そう?」 やっぱりこう言われると照れるなぁ… とは言え何処に行けば喜んでくれるだろうか? う〜〜ん… 「あ、そうだ。ね、棗ちゃん」 「何…?」 「ゲームセンター・・行ってみる?」 「…?ゲーム…センター…」 「うん。ほら、棗ちゃんってあんまり外に出ることって無いんでしょ?」 「…うん…」 「だからそう言うのに慣れる為の練習もかねて遊ぼう、ね?」 「………」 「あ、やっぱり…だめかな?」 「ううん…そんなこと…ない…かも…」 「本当?」 「うん…隆士…君…が…私…のため…に…考えて…くれて…る…から…私…行きたい…かも」 「そ、そう?良かったぁ。じゃあ、行こうか?」 「…うんっ…」 そういって暖かい笑みを見せてくれる棗ちゃん。 棗ちゃんの人見知りを少しでも解消できればいいな… そう思ってゲームセンターへ歩みを進めたときのことだった。 「おヤ?」 「…あれ?確か、部長さん?」 「えエ、ご機嫌ヨう、タマなしさん。」 「いや、だからタマなしとか言わないほうが…っていうかその格好…」 「コれでスカ?単なル日差し避ケでスよ。何カ?」 「え、いや別に…」 単なる日差し避けならなんでそんな男の勲章みたいなサングラスを…? 「オや?そチラにいるノは梢部員デはナいでスカ?」 「…ぁ…」 ま、まずい!よく考えたら街中に出て『梢』ちゃんを知ってる人に会ったらまずいんだ! デパートで早紀ちゃんに変わったときは誰にも会わなかったけど… 「あ、あのね部長さん、こ、これは…」 「……」 「…フむ。何か深い事情がアるよウですネ。」 「え?」 「おヤ?違うノですカ?梢部員とハ随分様子が違ウようですガ?」 「いや、それは…」 「……」 「……フう。今日はお暇シマすヨ、タマなしサン、梢部員、さよウなラ。」 「あ、うん…さよなら、部長さん…」 余りにも男らしすぎるサングラスをかけた部長さんを見届ける…と、くるりとこっちをむいた部長さん 「?」 「…?」 僕も棗ちゃんも思わず首をかしげる。 ごそごそ こっちを向いた部長さんはいつぞやのくまのぬいぐるみに手を突っ込み、なにかを探しているようだ。 少ししてぬいぐるみの腹から取り出されたのは…3つのコップ。 何故? 「……サングラスをかケて…3グラスを持ツ。」 …………………………………………………… 「クッ。ソレでハご機嫌ヨう。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え〜〜? 余りのことにしばらく固まっていると隣で棗ちゃんがぷるぷると小刻みに震えていることに気づいた。 「棗…ちゃん?どうしたの?」 「…!う…うん…!!な…んで…!!…も…ない…かも…っ……!!」 明らかになんでもないこと無いかも。 いつもより言葉の切れが強い。何かものすごい勢いでこみ上げてくるものを押し殺してるみたいだ 何を? 少し考えたところ僕は恐ろしい結論に到達する。 まさか… 「棗ちゃん…今の部長さんのギャグ、面白かった…?」 「!!(ぴくん!)」 やっぱり… 「だ…だっ…て…サング…ラス…かけて…て……っ…グ…ラス…を3つ…って…お…もし…ろい…よ……?」 語尾が『かも』じゃなーーーい!?!? 「っりゅ…隆士…君は…面白…く…なか…た……かも?」 「え?い、いやー…お、面白かった…かも?」 ……こ…これも棗ちゃんの新たな一面…なのかなぁ〜? 「と、とりあえず…落ち着いたかな?」 「…うん…も…だいじょ…ぶ…かも…(ぷるぷる)」 うわぁ〜…ギリギリぃ〜… 「…ゲームセンター、行く?」 「……うん、行く…かも…」 ――デート、再開。 ゲームセンターまで歩いていくことにしたので、その間今まで聞かなかった事などを聞いてみる。 「それにしてもさっきはゴメンね。助けて上げられなくて」 「…うう…ん…いい…の…」 「何で?」 「…だ…て…隆士…君……声…出し…て……私…を…助けよ…と…してくれ…た…から……」 「棗ちゃん…」 なんてええ娘や、棗ちゃん…… 「そういえばさ」 「?」 「棗ちゃんて手品上手だよね。」 「…ぇ…?………そ…そんなこと…ない…かも…」 「そんなことなくないよ。頭から花を出した、桃乃さんに見せたトランプの手品とか、たくさん手品を知ってて凄いよ。」 「……え…へへ…(ぽんっ)」 棗ちゃん、嬉しそうだ。花も出てるし。あ、確か…他にも凄い手品があったような・・・あ。 「そうだ。このあいだの。ホラ煙りだして消えてから他のところに出てくる手品があったよ…ね?」 そう言いながら棗ちゃんを見ると、ほのかに頬を赤らめてる。何で? 「ど、どうしたの?熱い?」 「…え…?…あ…ち、違…かも…その…ときのこ…と…思…出して……」 その時の…こと…はうぁっ!?――――― 『隆士…君…は……  …わ………わた…しの…こと…  す……好き…かも…?』 『…も……もも…もちろんだよ!  す……好きだよ!!  だ……大好きだよ!!』 『…よかっ…た…  わた…しも…隆士…君の…こと…』  大…好き…』 ―――――っぁうは!? そうだ。 この間棗ちゃんが出てきたときに僕は第二の告白とも言えるやりとりをしてたんだった… 見る見るうちに僕の顔も赤くなる。見えないけど。 それをみた棗ちゃんも顔の赤みが増してる。 まずい…この雰囲気は非常にまずい… と、そこにようやく… 「あ!棗ちゃん、ゲームセンター見えてきたよ!」 「う……うん……」 地獄に仏。渡りに船。猫に小判。 最後の一つは違うけどようやくこの状況を打破するモノ=ゲームセンターが見えてきた。 とりあえず目的地に着いたということで少しは気が逸れるといいけど… 「じゃ、行こうか?」 「…うんっ…」 さて…ようやくデートらしいデートが始まる…のかなぁ〜? ゲームセンター・到着。 「棗ちゃん、どんなのがやりたい?」 「わ…たし…?私…あ…まり……知らない…から…隆士…君…教えて…くれる…かも?」 「そ、そう?」 「……ん。」 「えーと…それじゃぁ…あ、クレーンゲームやる?」 「クレーンゲーム…?」 「うん。クレーンを動かしてぬいぐるみを取るゲームなんだ。やってみる?」 「…うん。やって…みたい…かも…」 「よし、じゃあ、やってみよう!」 「うん…」 ……………… 「は、はは…僕…クレーンゲームあんまり得意じゃないんだよね…」 「惜しかった…か…も…?」 「いいよ、無理しなくて…それより大体分かった?」 「…うん」 「じゃ、一回やってみる?」 「う…ん……」 棗ちゃんの挑戦が始まった! ういーー… 「どれを狙ってるの?」 「あれ…かも」 あ、ひさしぶりにまともなぬいぐるみ。 ういーー…がし 「あ、つかんだよ!」 「もう…ちょっと…かも…」 うー……ぽとっ。あ。 「落ちちゃった…ね」 「残…念…かも(しょげー)」 棗ちゃんの挑戦第一弾・失敗。 「も…一回…やって…みた…いかも…」 「うん、頑張ってね」 「頑張る…かも」 棗ちゃんの二度目の挑戦が始まった! うーーー…がし 「あ、また掴めた棗ちゃん頑張って!」 「……」 「棗ちゃん?」 「…今度は…逃がさない…………かも」 「な、棗ちゃん!?」 うぃーーー……ぽん 「と、とれた!」 「…やっ…た…かも?」 「うん、すごいよ棗ちゃん!上手いんだね!」 「えへ…へ…も…いっかい…やって…みるかも…」 棗ちゃんの三度目の挑戦が始まった! うぃー…がし。うぃー…ぽん 「うわ!また取れた!凄いよ棗ちゃん!」 「くせ…を…見抜け…ば……そんな…に…難し…く……ない…かも?」 うーん…それが難しいんだけどなぁ〜… 棗ちゃんにこんな特技があるとは… 「も…少し…やって…み……い…かも」 「うん、こうなったらとれるだけ取ってみようよ!」 「ん…頑張って…みる…かも?」 棗ちゃんの四度目の挑戦が始まった! うー…がし うぃー… ぽん 「ま、また取れた!?」 その後も… ぽん ぽんぽん ぽんぽんぽん ぽんぽんぽんぽん ぽんぽんぽんぽんぽん ぽんぽんぽんぽんぽんぽん ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん 「な…棗ちゃん…」 「…何…かも?」 「も…このぐらいに…しとかないと…うもれちゃう…よ…」 「ぁ…ご、ごめん…な…い……」 「いや…謝らなくてもいいんだよ。こんなにたくさんぬいぐるみも取れたしさ」 「…(ほうっ)…」 「さて、と…じゃ、次は何やろうか?」 「…ぁ…あれ…」 「?どれ?」 「…あれ…が…やって…み…い……かも…」 「あれ…って…もぐらたたき?」 「ん…」 「よーし、それじゃまた僕が試しにやってみるね。」 「うん…」 僕の挑戦が始まった! 「ていっ!やっ!えいっ!〜〜〜〜〜〜〜〜………だ、ダメだ…」 僕…これ苦手… 「隆士…君…だいじょ…ぶ…かも?」 「うん…まぁ、なんとか…」 うう…情けないなぁ… 「次は棗ちゃん…やる?」 「うん…頑張ってみる…かも…!」 棗ちゃんの挑戦(もぐらたたき編)が始まった! ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 ひょこっ 「…」 GAME OVER 「あの…棗ちゃん…?」 「は…速い…かも…」 「大丈夫?」 「うん…今度は…外さない…かも」 「うん、頑張ってね」 「分か…た…かも…」 棗ちゃんの二度目の挑戦(もぐらたたき編)が始まった! ひょこっ 「そこ…かも」 すぱん! 「おお!?」 ひょこっ すぱん! ひょこすぱん! ひょすぱん! ひすぱん! hすぱん! すぱん! すぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱん!! 「おおおおおおおおおお!?!?!?」 PERFECT!! 「す、凄い…凄すぎるよ棗ちゃん…」 「全体を…よく…みてれ…ば…簡単…かも?」 だ、だからそれが出来れば苦労は無いんだけど… 「それにしても凄いね。結構ゲーム得意なんだね」 「初めて…やって…だった…けど…」 「うん。初めてなのにこんなに上手なんてうらやましいよ。僕なんてすぐお金なくなっちゃうし…」 「隆士…君…ドン…マイ…かも?」 「はい…これからはもっと上手くなるよう努力します…」 「がん…ばって…」 「ありがとう。それで、どう?楽しかった?」 「……とっても…とって…も……楽しか…た…かも……隆士…君…ありが…と…かも…(ぽんっ)」 頭から花を咲かせる棗ちゃん。喜んでくれているみたいだ。 「さってと…これからどうする?」 「もう…いい…よ…」 「もう?」 「ん…一杯…いっぱ…い…遊べて…楽しかった…かも……こんなに楽しいの…初め…て…」 「棗ちゃん…」 「わ…たし…隆士…君と…出逢え…て…から…楽しいこと…ばか…り…  ほん…と…に…本当…に…ありが…と…隆士…くん…」 「僕も、棗ちゃんと出逢って、友達になって、こ、恋人になって…楽しいことばかりだよ。  お礼を言いたいのは僕だよ。いつもありがとう、棗ちゃん。」 「隆士…君…」 「じゃ、帰ろうか。」 「うん…」 ゲームセンターでのデートを終えた僕たちは鳴滝荘に帰ってきた。 「ただいまー」 「あら白鳥クン、お帰り!」 「お帰り、お兄ちゃん!」 「ただいま、桃乃さん、朝美ちゃん。」 「遅かったですね〜」 「何処行ってたんダ?怪しいナ」 「た、珠実ちゃんに灰原さん…何もありませんよ!何言ってるんですか!」 「……///」 「さてさて、と!白鳥クンとなっちんも帰ってきたことだし…野郎共!宴会行くぞコノヤローーー!!!」 「「「「応〜〜〜!!!」」」」 や、やっぱりこうなるのか… 「白鳥クーン、先行ってるわね〜!」 「は、は〜い…」 「隆士…君…?どうした…の…?」 「はは…なんでもないよ…」 でも、棗ちゃんは大丈夫だろうか? 「棗ちゃん、これから宴会だけど…行く?」 「…行って…みる…かも…私…頑張る…って…決め…から…」 「棗ちゃん…」 ホンマええ娘や… 「じゃあ、行こうか」 「うん…私…頑張る…(ぽんっ)………かも…(しおー)」 ふ、不安… ほんの数分前まで僕の部屋―現在は宴会会場。 そこに向かうまでの少しの間に棗ちゃんの頭から花が出てきてはしおれていく。 もう朝美ちゃんが泣いて喜ぶほどの量の作り物(たぶん)の花だ。 がちゃり。ドアを開けるとすでにそこは戦場だった。 「白鳥クン遅い!」 「すいません…」 「白鳥さんのノロマ〜」 「そんなに遅れてないでしょ…」 「おウ!ま、座れよ!」 「僕の部屋なのに…」 ちなみに今回も朝美ちゃんと沙代子さんは内職です。 「さ〜て!なっちんも来たし!行くわよ珠ちゃん!」 「らじゃ〜♪」 「……?」 「「第3回!!棗ちゃんと遊ぼう大会inっ鳴滝荘2号室〜〜〜!!!」」 ま、また変な催しを… 「今日はなっちんとせっかく会えたんだから今日も今日とてスキンシップだわよー!!!」 「です〜♪」 「また急な…」 「計画性ってモンがないナ」 「……」 「さーて、行くわよ野郎共!!鳴滝荘歩兵師団、吶喊〜〜〜!!!」 「「「「応〜〜〜!!!」」」」 桃乃さん達の挑戦が、再び始まる!! case1.朝美ちゃん 「こんにちはー!」 「……こんに…ちは…」 「はぅ〜(じ〜ん)」 「……?」 「あ、なんでもないよ!ただこうして喋れるのが嬉しいの!これからも宜しくね!」 「…(ほうっ)…」 「えっと、じゃあ今日も新ネタをやるね!」 「…(こく)…」 「アルミ缶の上に!」 そう言って朝美ちゃんが出したのはアルミ缶。まさか…まさか……!! 「あるみかん―――」 や、やっちゃったーー!!?と、思ったそのときだったんだ。僕が朝美ちゃんの真髄を見たのは――― 「―――箱ー!!」 み、みかんじゃなくてみかん箱!? 「の、未完成品ー!」 しかも微妙に上1/3が無い!? こ、これは…アル『ミ缶』と『みかん』箱と『未完』成品の三段重ね!? 今まで『アルミ缶』と言えば『―の上にあるみかん』で決まりのパターンだったから忘れていたけど まだまだこんな可能性があったとは…!!それに対して棗ちゃんは… 「……………」 「お、面白くなかった?」 ノーリアクション。……に、見えるが、今日の事を考えると、これは… 「大丈夫、朝美ちゃん。棗ちゃん凄く面白いと思ってるよ」 「ほ、本当?お兄ちゃん」 「うん。ね、棗ちゃん」 「ん……(ぷるぷる)とって…も……おもし…い…かも…」 「ほ、本当!?」 朝美ちゃん ― 交流成功! case2.沙夜子さん 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 ね、念の為に言っておきますけど、上から棗ちゃん、沙夜子さんの繰り返しです。念の為 「…………(にこー)」←沙夜子さん・屈託の無い笑顔 「…………(にこ…)」←棗ちゃん・自信が無さそうだけど嬉しそうな笑顔 「…完璧よ朝美…とても通じ合えたわ…」 「「ええっ!?」」 今ので!?と、僕と朝美ちゃん。 「ほ、ほんとに今のでなにか通じ合えたの!?お母さん!」 「…ええ…とても仲良くなれたわ…」 「な、棗ちゃん、本当?」 「…ん……(ぽんっ)」 頭から花が…本当に何か通じ合えたようだ… 沙夜子さん ― 交流成功? case3.珠実ちゃん&灰原さん(ジョニー) 「よーし、次は俺たちだナ!」 「行きますです〜」 と、それぞれの右手にジョニーとドワルガー…だったけ。の、人形がはめられている。 「棗ちゃん〜、ちゃーんと見ててくださいね〜?」 「見逃すなヨ!」 「…(こくり)…」 『お前で最後です〜…ジョニー!!』 『俺とお前は…闘う事でしか解り合えない!!』 『『うおーー!!』』 と、片手で操っている人形とは思えないスピードで人形によるパンチが応酬される。 『そうです、それでいいです!お前の力を、全部私にぶつけるです〜!』 『喰らえ!爆熱!!ゴッドフィンガーーー!!』 『なんの!』 何故か赤く染まる灰原さんの指(=ジョニーの手)を避ける珠実ちゃんのドワルガー。 『まだだ!まだ終わらんよ!!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ!!!』 『ふっ、当たらなければどうと言う事は無い!!です〜』 無数のジョニーの手(=灰原さんの指)をこれまた華麗な体捌きで避けるドワルガー人形。 『今度はそっちから行くぜ!(!?)です〜』 そういった珠実ちゃんはドワルガーを持つ手を8の字に動かし始める。 それを見たジョニーと桃乃さんが同時に声を上げる。 『「で、デンプシーロール!?」』 『喰らうです〜!!』 『何のこれしき!!後ろに下がればただのフック!!』 そう言ってジョニーは後退する。だがまだ珠実ちゃんのドワルガーは終わりではなかった! 8の字を描いていたドワルガーはその途中で動きを止める。 『何!?フェイントだと!!?』 後退したばかりで思うように動けないジョニーにドワルガーの目が光る。 『覚悟するです〜…』 『くっ…!』 『抹殺のォォォォォ…ラストブリットォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!です〜』 『グハゥァアアォオオオオォォォォ!!!』 凄まじい威力のドワルガーの拳を受けたジョニーは恐ろしい悲鳴を上げて吹き飛ぶ。 ちなみに、灰原さんはそこから動くことなく、腕だけが後ろに吹き飛んで、それを灰原さんが抑えている感じです。 ドワルガーの凄まじい拳を受けたジョニーはもう動くのもままならないようです。 『まだ、終わってないです〜』 『げふっ!』 そういって器用にドワルガーの足でジョニーを蹴る珠実ちゃん。 『畜生ー!!』 と、あたりもしない距離で腕を振るジョニー。それをあざ笑うかのようにドワルガーが動く。 『甘いなっ。です〜』 ズンッと重たい拳をジョニーに見舞う。 ダメージの余りジョニーは震えている。やりすぎだよ珠実ちゃん… 『私は常に勝者なのです〜♪』とか言ってまだやる気満々な珠実ちゃん。でもジョニーと灰原さんは… 『ロ、ローゼンリッター!(驚』と、訳の分からない事言い始めてるし… 『ララァ…私を導いてくぐほぁっ!』 あ、ぶった。 『カミーユッ!お前はっ、俺のっ…』 『誰がカミーユですか〜(バキッ!)』 に、二度もぶった!? さっきの二撃目がキいたのかジョニーが動き出すのは10分後となりました。 「……どうでした〜?棗ちゃん〜」 「…ぇ…と……見ご…え……が…あり…まし……た…?」 「そうですか〜♪これで灰原さんも浮かばれるです〜♪」 嬉しそうな珠実ちゃん。でも灰原さんは死んでないよ…(というかもう少しパクリは控えようよ、二人共…) 珠実ちゃん&灰原さん&ジョニー ― 一応交流成功…? case4.桃乃さん 10分後、起きたジョニーと桃乃さんの、 「ビールをもらえないか?」 「余分は無いわよ〜、すぐそこで冷蔵庫だから、そこで飲めばいいんだわよ〜」 と言うやり取りを乗り越えて、次は桃乃さんの番です。 「やっほ〜なっち〜〜ん!改めてこんちはー!」 「…こん…に……は…」 「くーっ!こんな日が来るのをオネーサン、どれだけ待ったことか!  今日は良い日じゃ!ホイなっちん、コレ飲んで!」 そう言って桃乃さんが差し出したグラス…ってアレは!! 「棗ちゃんっ、それ飲んじゃ…!!」 「…んっ……(ぐびー)」 「あっ…!桃乃さん!それっ…」 「モ〜チロン!ウォッカ、だわよ〜?」 「やっぱり…」 もう、この人は… 「棗ちゃんにお酒を飲ませないでくださいよ!」 「なんでよ〜?お近づきのシ・ル・シvじゃないのよ〜?」 「僕の時もそうでしたけど、いきなりお酒ってのはどうかと…」 「も〜、相変わらず白鳥クンは御堅いやね〜」 「だから、堅いとかそんなんじゃなくて、常識で考えて…」 「…恵…さん…」 「「ん?」」 棗ちゃんの急な呼びかけに、呼ばれた桃乃さんだけでなく、僕まで振り返る。 振り向いた僕と桃乃さんの目の前には、顔をほんのり赤くした棗ちゃんが空になったコップを持って座っていた。 「なっちん〜?どーしたの〜?」 「これ…お酒……ですか…?」 「そーだわよ〜。あ、やっぱなっちんにはちーっとばかし早かったカナ〜?」 「い…え……美味しい……です…」 ええーーーー!!? 「ウヒョー!さ〜すがはなっちんだわね!分かってる〜!ささ、もう一杯どぉーぞぉ!!」 「いただきます……(ぐびー)……ぷはっ…」 「な、棗ちゃん、あんまりお酒は…」 「んっ…(ぐびびー)」 って三杯目!? 「桃乃さん!そろそろ……」 「イィヨォーーシ!珠キチ!ありったけの酒持って来ーい!なっちんとアタシで、飲み比べだぁーーー!!!」 「って桃乃さん!人の話聞いてま…」 「すもももももも桃乃さんプァーンチ!!」 「おうはっ!」 痛い… 「な、何で殴るんですか…」 「戦士の宴を邪魔する汝が悪いのだー!!」 「です〜」 「た、珠実ちゃんまで…」 「隆士…君……」 「棗ちゃん?」 「私…は…だいじょ……ぶ…だか…ら…気に…しな…いで……」 「棗ちゃん……」 それ以前に棗ちゃん未成年… 「よーく言ったなっちん!珠キチ!お酒!!」 「はいはーいです〜♪」 そうして何故か棗ちゃんと桃乃さんの飲み比べが始まった。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 そうして何故か棗ちゃんと桃乃さんの飲み比べが始まって10分が経った。 結果…… 「うぼぁ〜…もー…飲めないわよ〜〜……」 「…(ぐびびびー)……」 「も、桃さんが〜!?」 も、桃乃さんが飲み比べで負けた!!? 「うえ〜…ぎぼぢ悪い〜。うひょ〜…刻が見える〜にゃはは〜〜」 「おやおや〜、桃さんが輪をかけて飲んだくれのダメ人間になってるです〜。大丈夫ですか〜?」 「んんっ!こいつぅ! 大きな口を叩くようになりおってぇん!  んにゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!  ダーイジョブ、ダイジョブ!おね〜さんはぁ、このぐらいのアルコールでは死にましぇえん!」 大分酔ってるな、桃乃さん… 「桃、もう寝ろ。今にも死にそうだゾ?」 「はぁ〜?こぉのアタシがぁこのくらいで酔うわけないっしょ〜?  このワシの正体にまだ!!気付かぬかぁぁぁぁっ!!!!にゃっはっはっは!!」 も、もうダメだこの人…あ、そうだ!棗ちゃんは… 「棗ちゃんっ」 「……(ぼー)……」 その棗ちゃんは、虚ろな目をして明後日の方向を見つめている。顔もほんのり赤い。う…かなり色っぽい… お酒の力かどうかは知らないけど、いつもの少女らしさは消えて、すこし大人びた感じに見える。 「棗ちゃん、大丈…」 「ウニャハーーー!!」 「うわぁっ!!?」 不意に横から桃乃さんが魚子ちゃんミサイルの様に飛んでくる。 「も、桃乃さん!?は、離れてください!!」 「いやーよぉ〜!諸君らの応援してくれたあたしは飲み負けた!何故だ!!」 「坊やだからですよ!だから離してください〜!」 なにが『だから』なのか自分でも分からないけど今はこの状況から脱出するに限る。 「離してください!も、もう休んだらどうですか!?」 「なーに言っとるかー!?このまま眠ってられますかってんだー!!」 「うあ〜〜!?」 「棗ちゃん〜、いいんですか〜?」 「…?」 「このままじゃ白鳥さん、桃さんに取られちゃいますよ〜?」 「!!(すくっ)」 「ニャハハ〜♪ホレホレ〜♪」 「うあ〜!止めてください〜!ほ、本当に休んだほうがいいですよ!!」 「なぁ〜に言ってんの!こんなのまぁだまだ宵の口ヨ〜!ニャホホホ〜イ!」 ううっ!このままじゃマズい!非常にマズい!! 「酔いすぎですって、ば!もう宴会は終わりにしましょうよ!!」 「だぁからまだまだ飲めるっつってんでショー!?舐めてんのキミ〜!?」 もうこの人は止められない…!!その時だった。 「ニャハハ〜(くいくい)んニャ?」 「(じー)」 桃乃さんを止めたのはまだ赤みの残る顔で無表情に桃乃さんを見つめる棗ちゃんだった。 「(じー)」 「う…なっちん…」 「(じー)」 「ニャ…ハハ…な、何カナ〜?なっちん…」 「や。」 「ニャニャ?」 「隆士君取っちゃ、や。」 え!? 「隆士君は私の恋人だから、取っちゃ、や。」 「い、いや、あのね〜、コレはおふざけで…っていうかなっちん、やけにすらすら喋るわね…」 「取っちゃやー。離れて〜(ぐいぐい)」 「ギニャー!?痛い痛い!触覚(=アンテナみたいな髪の毛)引っ張んないで!!痛い!」 「な、棗ちゃん!?」 「やー。(ぶんっ!)」 「ギニャーーーーー!!?」 棗ちゃんに片手で投げ飛ばされた桃乃さんは珠実ちゃんが開けたドアを向こうまで飛んで、廊下の柱に直撃して動きを止めた。 「も、桃乃さ…」 「隆士君ー!(がしっ)」 「うわぁっ!!?」 こ、今度は棗ちゃんが僕にだ、抱きついて!? 「なななな、棗ちゃん!は、離して、苦しっ…!」 「隆士君ー、好き好きー。大好きー。(すりすり)」 「おうああうぇーーー!!?」 ななななななななななななな棗ちゃんがまるで魚子ちゃんみたいににににに僕にすりよよよよよよよよってくるうウウウウウ!!!! 「お、お母さん!あ、あれって大人の関係なの!?」 「見ちゃダメよ…朝美…」 「あ、朝美ちゃんも沙夜子さんも見てないで助けてっ…!灰原さんも珠実ちゃんも!!」 「若いモンの邪魔は野暮だしナ」 「マ゛〜…」 「りゅうしく〜ん〜〜…」 「うえおあうおえー!!た、珠実ちゃん!お、お願いだから棗ちゃんを止めて〜!(「りゅうしくん〜(すりすり)」)うあ〜!!?」 「おや〜?白鳥さんは私に梢ちゃんを殴ってでも気絶させろと言うですか〜?この外道〜」 「うぇっ!?ちち、違うよ!!とりあえず棗ちゃんの酔いを醒ませればいいんだけど…」 「……まぁ、出来ないことも無いですけどね〜。目の前で見せ付けられるのも癪なんで、仕方ないです〜」 珠実ちゃんがそう言った瞬間、僕に頬擦りしている棗ちゃんの背後に珠実ちゃんが現れ、首のある一点を指で突いた。 その途端に棗ちゃんはその動きを止め、ピクリともしなくなる。意識は失っていないようだから梢ちゃんには戻らないだろうけど… 「な、何したの、珠実ちゃん…」 「酔い覚ましのツボを突いただけです〜。外傷も後遺症も残らないです〜」 ほ、本当にそんなツボあるの…?(実際にあるかは俺にも分かりませんby作者) ほんの少しの間をおいて、棗ちゃんの目に光が戻る。酔いは醒めてるんだろうか…? 「な、棗ちゃん、大丈夫?」 「……(ぽんっ)」 押し黙る棗ちゃんの頭上に花が咲き、ものすごい勢いで膨らんでいく。これは…あのときの…っ!? ボンッ!!! 膨らんだ花は爆発して、眩い輝きを放った。 その瞬間、僕の上に乗っていた重さが消えて棗ちゃんが僕の上からどいた事が分かる。 ―――そのとき、聞こえた、消え入るかのような声が聞こえた。――― ―――「ほん…と…に……ごめ…なさ……」――― 彼女の、声。 光が収まったとき、棗ちゃんは僕の部屋から居なくなっていた。 私は怖かった。 皆が消えてしまうのが。 私は怖かった。 愛しいあの人が消えてしまうのが。 でも私が本当に怖いのは。 愛しいあの人を、皆を、裏切り、傷付けてしまう事だった。 「棗ちゃんっ!棗ちゃーん!!」 夕暮れ時。 空は、東京のビル街は、そしてこの鳴滝荘は完全な朱に染まった。 そんな中、僕―白鳥隆士は、蒼葉梢ちゃん―今は、紺野棗ちゃん―を探して、鳴滝荘の敷地内を走り回っていた。 他の皆には、桃乃さんの介抱を任せ、後は自分に任せて欲しい―と言っておいた。 今の棗ちゃんには僕が会って、話をするべきだ。と、半ば自分勝手ながらそんな考えがあったからだ。 でも、確かにあのときの彼女は泣いていた。だから僕が―と思い、部屋を飛び出して、今に至る。 「棗ちゃん!棗ちゃん!?」 もう何度目になるだろうか、彼女の名前を大声で呼ぶ。 各部屋、管理人室、廊下は何週もしたし、中庭も草を掻き分けてまで探した。玄関前から鳴滝荘周辺にも居ない。 こんなかくれんぼ、早く終わらせたい。早く棗ちゃんの口から、あの謝罪の真意が聞きたい。 ……かく…れん…ぼ…? そうだ、最後の砦、屋根の上…! 「棗ちゃーーん!!!」 虚空に。正確には屋根の上に届くように大きな声で、再び彼女の名を口にする。 その時、屋根の上で確かに人が動く気配がした。 「棗ちゃんっ!そこだね!?屋根の上に居るんだね!?」 もう一度、動く気配。 でもこのままじゃ僕は屋根には上れない。 このままだと、夜が来て、朝が来て。そして棗ちゃんは眠って梢ちゃんに戻る。 そうなれば今日の事は次に棗ちゃんが出てきた時―それがいつかなんて分からないけど―そうなってしまうのは必然的だ。 コノママ?―コノママアエナクナル?―ソンナノ、イヤダ。―イヤダ。イヤダ。―――いやだ。……嫌だ!!! 「はしご…っ!!」 言うが早いか、僕ははしごを取りに物置へと走った。 物置から一人ではしごを担いでもとの場所へ戻った僕は、早速はしごをかけ、上に急いで上る。 かくれんぼのときに珠実ちゃんを探すために上ったとき以来だから、屋根の上へはほぼ一年は上っていない。 まあ、普通はそうそう屋根には上らないのだけれど。 そんなこと考えている暇はない。屋根の上で周りを見渡す。 いない。 いない。 いない。 いない!? 見渡す限り規則的な配置の瓦ばかり。棗ちゃんは? 焦りも出てきて、もう一度見渡す。 いない。 いない。 いない。 いな……! いた。 彼女は、夕日の方を向いて、小さくうずくまっていた。 位置的には中庭を挟んで反対の位置にいる。 「棗ちゃん…!」 またもや言うが早いか、駆け足で棗ちゃんの居る方へと動き出す。 「棗ちゃん」 僕は今、棗ちゃんの真後ろ、すぐ傍に居る。 やはり、というか、棗ちゃんは今泣いている。 僕の呼び掛けにも答えてはくれない。 もう一度… 「棗ちゃん」 今度は肩に手をかけ、呼ぶ。彼女の、名前を。 「―隆士、君………」 一瞬の間を置き、棗ちゃんは僕の存在を確認し、振り返った。 「棗ちゃん、」 ―探したよ。そう続けようとすると、棗ちゃんがそれを遮った。 900 名前: あしなみそろえて D-A 4/5 [sage] 投稿日: 2005/05/28(土) 23:02:26 ID:F95VGldT 「わっ…な、棗ちゃん?」 棗ちゃんが抱きついてきたのだ。 もっとも、酔った時の様な勢いは無かった。 それは抱きつく、と言った暖かな表現よりは、しがみつく―そんな、悲しみを感じる弱弱しい動作だった。 「棗ちゃん?どうしたの?」 「ごめ……なさい…ごめん…な……い………」 「棗ちゃん…」 僕の腕の中で、彼女は―棗ちゃんは―涙を流している。 「何で、謝るの…?」 「…私……恵さん…に……酷いこ…と……して…怪我も…さ…せちゃった……かも…しれない…し…」 「桃乃さんなら大丈夫。怪我は無かったし、軽く頭をぶつけただけだよ。」 「…………」 「だから、誰も気にしてなんか…」 「ごめんなさい…ごめん…い……ごめ…さ…い……」 震え。棗ちゃんを抱く僕の腕から伝わってくるのは震え。 棗ちゃんの今の心の底にあるもの―恐れ、悲しみ、寂しさ― そして彼女は、僕に、いや、もはや相手など居ない、受け取り人のいない謝罪の言葉を呟いている。 「ごめん…なさ―」 その何度目かも分からない謝罪の言葉を遮るように、僕は― 「棗ちゃん!!」 今までで一番強く、謝罪の言葉を吹き飛ばすように、名を呼んだ。 「っ!」 驚いたように、僕の胸にうずめていた顔を上げる棗ちゃん。その顔には涙の痕が残っていて、悲壮な表情をしていた。 「なんで―」 もう一度訪ねる。さらに、はっきりと。 「―なんで、謝るの?」 「え…?」 「何で?」 「だって…隆士…君…と……恵さん…達に…迷惑…かけたから…だから…」 歯痒くなった。 彼女にこんな思いをさせてしまってる事に。だから自分の中のそれを打ち消すために。僕の今の全てを口にする。 「僕は…僕は迷惑だなんて、少しも思ってなんかいない!!!」 「…隆士…君……」 「僕は勿論、桃乃さんだって、珠実ちゃん達だって、楽しかったんだ!!  君と一緒に居られる事が、僕と、君と、皆で、笑いあえることが楽しかった!だから…」 ―だから、僕は… 「だから誰も君に迷惑をかけられたなんて、思ってない!思ってるはずが無い!!」 叫ぶ。彼女の心に満ちている悲しみを、恐れを吹き飛ばすために叫ぶ。 そして、僕も腕に力をこめて、強く、強く棗ちゃんを抱きしめる。 彼女の震えが、止まるように…… ―時間が経った。 時間にして30…いや、5分も経ってないのかもしれない。 僕は体勢を変えて、後ろから棗ちゃんを抱きしめている。 まだ棗ちゃんは喋ってはくれないが、もう震えてはいないし、泣いてもいないようだ。