気が付くと周りにはたくさんの人がいた。 知らない人に囲まれて恐怖の感情があふれ出てくる。 泣きそうになるのをこらえ、ここが何処か確認する。 ガタンガタンと規則的な音。 壁の方へ目をやると、窓から外の景色がすぎていった。 上を見ると輪状のものに帯がくくりつけてある物がぶら下がっていて、 他には看板なんかが幾つも並んでいる。 これらのことから導かれる答えは――――― (ここは…電車の中……かも?) 紺野棗は相変わらず泣きそうな顔をして俯く。 お気に入りの髪型に変えたかったが、 そんな余裕も無く、できるだけ小さくなって考えをめぐらす。 さっきまで自分は何をしていたか? なぜ自分は電車に乗っているのか? そして今この電車はどこへ向かっているか? 特に3つ目は重要だった。棗も一応自分の住んでいる地域の地形を知っていたが、 殆ど、というか、外で気が付いた時以外は、全く外に出たことが無かった。 昔、学校で目が覚めた時は珠実が一緒にいてくれたから 帰る事ができたが、今はいない。 棗の性格からして、人に道を聞くということは、できなかった。 (そういえば、学校の帰りだった……かも) 珠実のことを思い出して、自分が学校からの帰りであることに気がつく。 今日は彼女の姿が見えない。 梢のことを守るために、こうやって人格が変わったときのために、 彼女はいつも一緒にいるのだから、彼女がいないのはおかしかった。 もっとも、棗自身はそんなことには気づいてないし、珠実がいない理由もちゃんとあった。 (珠実ちゃんは……いないの…?) そう思って、あたりを確かめようとした時だった。 「!!」 お尻の辺りに違和感を――人の手に触られたような気がした。 (気のせい…かも) そう願った。 しかし、彼女の願いは叶わない。 スカート越しに、見知らぬ人の手が棗のお尻を撫で摩る。 「…っ!!!」 声を上げることができない。恐怖で相手の顔も見ることができない。 (ち、痴漢……かも?) 認めざるをえなかった。 自身のお尻にあるのは紛れも無く人の手であるし、 その手はスカートの下から――― 「〜〜〜〜〜〜〜!!!」 そう。気が付くとスカートの下から触られている。 それだけではない。 腰の辺りにもう一方の手があり、制服の下にもぐりこでくる。 「はぅ……ぁ…」 ブラをずらされ、直接胸を触られる。ゆっくりと撫で回した。 胸の形を確かめるように大きくゆっくりと撫でる。 (りゅ、隆士君にしか、触られてないのに……) しかし、その手は止まらず、その柔らかさを楽しむように揉み出した。 「ぁ……あぅ…」 誰にも聞こえないくらい小さな声で喘ぐ。 手の主にはその小さな声をも楽しんでいるかのようだ。 手を休めるそぶりも無く、胸を、そしてお尻を撫で回す。 抵抗しようと体を振るが、狭い車内では大した動きも出来ず、 逆に、動く度に撫でられる結果となった。 「ふぅ…はぅ……」 しばらくして棗は抵抗するのを止め、身をゆだねる事にした。 確かに怖かったし、恥ずかしかったが、 快感が自分を喰らっていった。 感覚が鈍ってきたからか、 触り方も手の感触も、隆士としている時のような錯覚を覚えた。 急にお尻を触れていた手が、棗の秘所に近づく。 「んっ……」 十分に塗れた秘所に指が入り込んでくる。 ゆっくりと出たり入ったりを繰り返し優しく愛撫する。 (隆士君……隆士君…) 脳裏に浮かんだ愛しい人の顔を思い浮かべる。 今時分の後にいるのが彼ならどんなに嬉しいことか。 「…士…君…あぅ…隆士くぅん……」 いつのまにか思っていたことを口に出してしまっていた。 それを聞いた手の主が動くのを止めた。 「え……あれ?……棗ちゃん?」 耳まで感覚が鈍くなったのだろうか。まるで、本当に彼の声のような――― 棗はボンヤリした頭で後ろを振り向く。 もし違ったらどうなるか――ということを考えるだけの思考力は今は無かった。 そこに彼は――― ―――いた。 「棗…ちゃん……その…」 「…」 倒れるように抱きつき安堵する。 「…怖かった…かも」 「えっと……ごめん…その、いきなり」 珠実いなかったのは隆士がいたからだった。 電車の急な揺れで隆士に胸を触られてしまい、人格が変わってしまったのだ。 隆士も膨れ上がった衝動を抑えきれず、ついついやってしまったのだ。 梢が棗へ変わったことは今の今まで気づかなかった。 「でも……よかった…やっぱり隆士君だった…」 ほうっとした表情で棗が言う。 「分かったの?」 「うん…なんとなく…」 「そっか…それはちょっと嬉しいかな…」 小声で話す。周りには人がいっぱいなのだから悟られてはいけない。 「でも…」 「…でも?」 電車が停車した。隆士たちが降りるはずの駅だ。 「痴漢するのは良くない…かも」 車内の空気が変わった。 ぷしゅっとドアの開く音。 隆士は棗の手を引き全速力で駅を電車を出た。 「……?」 隆士は困った顔で走りつづける。 棗にはその理由がわからない。だが、 (私も…困ったんだから…ちょとだけ…困らせても…いいかも) 棗は手を引かれて笑顔で駆けて行った。