---------- 戦争の記憶 ---------- ある時、私は不思議な夢を見ました。 夢の中で、私は愛しい人と二人きりで鳴滝荘に住んでいました。 それはとても幸せな生活で、遠くで起こっている戦争の事も気になりませんでした。 しかし、場面は突然変わりました。 街を包む炎、黒い煙。空には巨大な爆撃機。 私が何か言っています。 「総一郎さん。早く・・・、早く逃げましょう。」 すると鳴滝荘の中庭の大木の下に座っている男の人はこう言いました。 「いや、僕は逃げない。僕にはここを守るという義務があるんだ。」 と言って動こうとしませんでした。 「あなたがここを大事に思っている事はよく分かっています。ですが・・・。」 すると、その男の人は立ち上がって私の肩に手を置いてこう言いました。 「わかった。君がそこまで言うのなら・・・。僕にとって確かにここは大事な場所だけど、それ以上に僕は・・・。僕は君の悲しんでいる顔は見たくないから・・・。」 「総一郎さん・・・。」 するとその人は後ろを向いて言いました。 「さ、さあ早く逃げよう。・・・か。」 「はい。」 再び場面が変わりました。私とその人が燃え盛る街の中を逃げていました。 その人は無言でしたが、私の手をしっかりと握ってくれました。 やがて、私たちは川沿いに無人の防空壕を見つけて入りました。 「すごい炎だ。今夜はここに釘付けになりそうだよ。」 「そうですか。」 「寒くないかい?」 「はい。」 その人は私にそっと寄り添ってくれました。 彼の体の温もりが、私に伝わってきました。 私がまた何かを話し始めました。 「私、思ったんです。戦争が終わったら、また昔みたいに鳴滝荘をアパートにしたいって。」 「なんで、そう思ったの?」 「総一郎さんにとって鳴滝荘は大事な場所です。勿論、私にとってもかけがいのない場所です。私はもっと多くの人に鳴滝荘を大事な場所だと思ってほしい。そう思ったんです。」 「そっか。実は僕もそう思っていたんだ。いつかはまた鳴滝荘をアパートにしたいって。うまく言えないんだけど、やっぱり鳴滝荘はみんなの鳴滝荘である方がいいと思うんだ。」 「そうですか。」 すると、私は外を見てつぶやくように言いました。 「早く戦争が終わるといいですね。」 「そうだね。」 やがて火が消え、私たちは外へ出ました。街は瓦礫の山になっていました。 私たちは鳴滝荘が燃えていないか。そればかりが気がかりでした。 しかし、奇跡は起こりました。鳴滝荘は無事だったのです。 「よかった・・・。本当によかった。」 その人は門の前で立ったまま涙を流していました。 そこでまた場面が変わりました。戦争は終わったのです。 戦争が終わってすぐ、その人は「鳴滝荘」と書かれた新しい看板を玄関に打ち付けました。 「さて、どんな人が来るのかな・・・?」 「楽しみですね。総一郎さん。」 「うん、賑やかになるね。」 やがて、様々な人が鳴滝荘に入居しました。犬を連れた復員軍人、疎開先から帰ってきた親子、私の古い友達の女学生、混乱の中上京してきた大学生。 鳴滝荘は再びみんなの鳴滝荘となりました。 再び場面が変わり、春の暖かい日差しの中みんなが玄関前に並びました。 「はい、撮りますよ。」 (カシャ)   ・   ・   ・ (ピピピピピピ) 私は目覚ましの音に気付いて、そこで目を覚ましました。 春の穏やかな日差しがカーテン越しに差し込んでいます。 (今日はあの人が来る日だ・・・。) 私はそう思うとカーテンをそっと開けて外を見ました。 380 名前: 戦争の記憶 あとがき [sage] 投稿日: 2005/05/08(日) 00:14:24 ID:qUZCWuJV とりあえず、設定がメチャクチャな上、駄文を長々とすいませんでした。 そして初めて書いたのですが、こんなに苦労するとは思いませんでした。いつも読み手だっただけに、書き手側の苦労を思い知らされました。 読んで頂ければ幸いです。