―friend― 夕方のある町の商店街で、スーパーから1人の女の子が出て来た。 「これだけあれば一週間はもつよね!」 いくら貧乏でも決してめげない少女、黒崎朝美は買い物を終え、家路に帰る途中に公園に立ち寄った。 そこには野菜炒めに使う雑草、いや食べられる草が生えている。 「わーい!これで今日もおかずに困らなくて済むよー!」 ブチブチとそれらの草を抜き取って、買い物袋の中に入れた。 「お母さん、内職進んでるかな…?」 彼女の母親である黒崎沙夜子は、共に『鳴滝荘』という古風なアパートに住んでいる。 そこには女子高生ながらも1人で管理をしている大家や、いつも部屋でゴロゴロしてばかりいる大学生がいたりするのだが、 皆優しい人ばかりで、黒崎親子も彼女等に何度か助けてもらう事もあった。 この親子、何を隠そうド貧乏である。 何せ、本来働かなければならない沙夜子の生活能力は0に等しく、内職をして生計を立てている。 その内職も、娘である朝美がほとんどこなしているという始末である。 「急いで帰って明日までに内職終わらせなくちゃ…」 早足に足を進めていると、遠くに知っている顔が見えた。 「あれ、朝美ちゃん?買い物の帰り?」 「あ、お兄ちゃん!うん、今スーパーで色々買ってきたんだー」 朝美がお兄ちゃんと呼んだその男は白鳥隆士。彼女がもっとも信頼している人物の1人でもある。 「今授業が終わったところなんだけど、一緒に帰ろうか?」 「うん!」 隆士も彼女と同じアパートに住んでいる間柄であるが、内職を手伝ってもらった事もあり、その関係は深い。 「朝美ちゃん、今日も内職あるの?」 「…今お母さんが進めてると思うんだけど、明日業者の人に渡さなくちゃいけないから」 「そっか…。あのさ、明日は学校も休みだしもし良かったら…」 「ううん、大丈夫!お兄ちゃんにはいっつも手伝ってもらってるし、私達で何とかなるから!」 隆士には何度か内職を手伝ってもらった事がある。 朝美が隆士の申し出を断ったのは、これ以上迷惑をかけたくないという気持ちの表れだった。 基本的に朝美は人に助けてもらったりする事が嫌いだった。 貧乏だから同情される、といった事が彼女にとって一種のコンプレックスのように感じていたからである。 「うん…それじゃあ、夜おなかが空いた時にこれ食べて?」 「あ〜!プリンだ〜!それに水ようかん!?」 「この間、沙夜子さんとその二つが好物だって言ってたでしょ?だからお土産に持っていこうと思って」 「ありがとうお兄ちゃん!これで今日は元気100倍だよー!」 「もし人手が足りなかったら呼んで?今日は課題やらなくちゃいけないから多分遅くまで起きてると思うから」 「…ねえお兄ちゃん」 「ん?どうしたの?」 「どうしてこんなに親切にしてくれるの?私達だって同じアパートに住んでるだけのただの他人なのに。  私達が貧乏だから、お兄ちゃんはこんなにやさしくしてくれてるのかな」 何故朝美がこんなことを聞いたのか、自分でも分からなかった。 彼のやさしさが、なんとなく不思議に思って自然に口が開いてしまった。 「………朝美ちゃん達はただの他人なんかじゃないよ」 「え…?」 「僕が鳴滝荘に来た時から、皆は他人なんかじゃなくて仲間だと思ってるよ。  皆と知り合って、自己紹介して、騒ぎあって…それから僕達はただの他人なんて関係じゃなくなったと思うんだ」 「……」 「それに貧乏だから親切にしたり心配したりしているわけじゃないよ。  朝美ちゃんがいつも頑張ってるから…沙夜子さんも沙夜子さんなりに頑張ってるから、僕は応援したいだけなんだ」 「お兄ちゃん…」 「え〜と、もしお節介が過ぎるって感じてるならあまりでしゃばらないようにするけど、  別に変な気持ちがあって朝美ちゃん達と接してるわけじゃないから」 「ううん、いつも色々してくれて本当に嬉しいよ!…ごめんなさい、変なこと聞いて…」 「いや、何とも思ってないよ。だから朝美ちゃんも気にしないで?」 「うん!」 朝美は、心のどこかに引っかかっていたもやもやがどこかに吹っ飛んでいったような、そんな感じを覚えた。 お兄ちゃんと出会えて本当に良かった、そんな思いでいっぱいだった。 鳴滝荘に着いた二人は別れを告げ、部屋に戻っていく。 「お母さん、ただいまー!…って、何も進んでないじゃない〜!ほら、早く起きてってば!ご飯にするよー!」 今日も鳴滝荘には元気な声が響く。 今夜は修羅場になりそうだ。 あとがき: 以上です。 何だか白鳥が良い人すぎてらしくないかもしれませんが… もっと良い文章が書けるように努力します。