夏。夏服。セーラー服だって夏服。青短高のセーラー服だって夏服。青短高に 通う蒼葉梢の着るセーラー服だって夏服。夏服というのは、冬服に比べて生地が 薄いため重力に素直になってしまう。今、白鳥隆士の目の前でこぼしたジュース を四つんばいになって拭いている蒼葉梢の胸元だって例外じゃない。 「ごめんなさい白鳥さん…っ。ついボーッとしちゃって…」 「ああ…うん…。…大丈夫…」  気のない返事になってしまうのも仕方のないこと。白鳥隆士も男なのだ。 そこにチラチラと視線を送るのに集中してしまっている。  いつもならそのまま梢がジュースを拭き終えて、隆士に最後にもう一度謝り、 普通の会話に戻り、隆士ひとりが悶々とする。これが黄金パターンだった。  …が。神の悪戯か、今回は梢が隆士の様子に気が付いてしまったのだ。 「…白鳥…さん?」 「ああ…うん…(ダメだ!見ちゃダメだけど…でも…っ!!)」 白い下着と膨らみだけではない。梢の動き次第ではその先まで見えてしまいそ うだった。だから、隆士は必要以上に一点に集中してしまっていた。 「……っ!!」  隆士の視線の先が自分に向けられていることに気付いた梢は、バッと胸元を押 さえると四つんばいを止め隆士に背中を向けて正座した。  もちろん梢以上に焦ったのは隆士だった。 「ご…ごめん!梢ちゃん…」 「いえ…私の方こそ…」 「・・・・・・」 「・・・・・・」  長い長い沈黙。先に口を開いたのは梢。 「ごめんなさい…ジュースはこぼしてしまう、変なものは見せてしまう…」 「そ…そんなことないって!すっごくセクシー…だ…った…」 勢いで口走ってしまったことに気付き語尾が意気消沈する隆士。再び長い沈黙 が辺りを包み込む。先に口を開いたのはまたもや梢だった。 「…あ…ありがとう…ございます…」 「え…いや…うん…」  鳴滝荘、夏の始まりのひとコマ。 「(愛情表現かぁ…。よくわかんないよなぁ。恋人同士になってもうしばらく経  つけど、愛情表現ってどんな風にすればいいんだろう…?)」 「白鳥さん」 「あ…な、なに?」 「風、気持ちいいですね」 「そ、そうだね」 「白鳥さんは、どんなお天気が好きですか?」 「え?…そうだなぁ…」 「雨の日は、なんだか暗いような気もしますけど耳を澄ませば雨の音が素敵な音  楽に聞こえてきたりして素敵です。曇りの日は、この後は太陽が覗くのかな?  雨降りのオーケストラかな?って、ちょっぴりワクワクします。  でも、ポカポカ暖かくて気持ちいい風の吹く晴れの日が、私は好きです」 「…そっか」 「白鳥さんはどうですか?」 「そうだなぁ…(―僕は)晴れの日が(君のことが―)大好きだな」