------------ その兆し(仮) ------------ 午前7時05分。 何時ものようにけたたましく鳴る目覚ましを止め、カーテンを開ける。 途端に私の目を射す、真直ぐな春の日差し。 それを手で遮りながら、指の隙間から外の景色を覗く、と――― 快晴。 窓で四角く切り取られた青空には、小さな雲一つ浮かんでいなかった。 「……いい天気」 思わず、呟いていた。 こんなに気分の清々しい朝は久し振りだ。 私は生まれ変わったような心地で、窓の外を暫く惚として眺めていた。 午前7時41分。 少し手早く身支度をして、家を出る。 朝の風は少し冷たい。 春とは言え、まだ4月の頭だ。当然と言えば当然だろう。 しかし今日は―――肌を刺すその風の冷たさが、少しばかり心地良く感じた。 それだけではなく―――今日は朝から、何だかやけに気分が良い。 通い慣れた通学路。 垣根の上の野良猫。 学校に近付くにつれちらほらと見えて来る、私のそれと同じ制服。 その何もかもが、今の私には全く新鮮なモノに見えた。 顔が綻んでいるのが自分でも良く理解る。 …今日は、何か良い事がありそうだ。 いや、こうして気分晴れやかに登校している事自体が、既に「良い事」と言えるのかも知れない――― 午前8時03分。 校門前到着。 気分の明々しさは、どういう訳かまだ持続した侭だ。 何時もなら少し憂々しく思える朝の学校も、今日に限っては皆に―――クラスメイトや親友に―――会える事が、嬉しくて仕方無い。 「……あ」 ふと見ると、丁度そのクラスメイトが二人、並んで私の前を歩いている。 普段はあまり言葉を交わす事も無いような間柄だが――― ―――今日くらいは。 私にしては珍しくポジティブなその考えに後押しされて、私は二人の背中に声を掛けた。 「お早うございます、皆さん」 「あ、おは…………ょ…ぅ……」 すると二人は振り返るなり、狐につままれたか狸に化かされでもしたかのように 口をポカンと開け、目を点にして私の顔をまじまじと凝視した。 「?」 小首を傾げたいのは私の方だ。 二人のリアクションは、普段は挨拶すらしないような人物から声を掛けられて驚いた―――と言うには、 どう考えても不自然且つ大きすぎるモノだった。 「…………??」 そそくさと昇降口の方へ行ってしまった二人の姿を眺めながら、私は暫し考え込んだ。 …何か変だっただろうか、私? 顔に何か付いていたとか―――鏡は朝にちゃんと見て来たのだけれど…… 「…あ―――」 あれこれと考えているうちに、私は人波の中に―――またしてもタイミング良く―――親友の見慣れた顔を見付けた。 彼女がどう思っているのかは解らないが、私は密かに彼女の事を無二の親友だと思っている。 学年こそ違えど、思った事はズバズバと言ってくれるタイプだ。 彼女ならきっと、今の私に何か変な所があれば真っ先に指摘してくれるだろう。 そうと決まれば話は早い。 私は満面の笑顔で、彼女の背中に声を掛けた。 「お早うございます。今朝はゆっくりなんですね」 ところが、である。 「……………………」 私の期待も空しく、彼女の反応もまた、先程の二人のそれと殆ど同じモノだった。 つまり、彼女―――茶ノ畑珠実もまた、目を丸くして私の顔を暫く見詰めた後。 ついでに―――こんな事を言った。 「……頭でも打ったですか〜? 部長〜…」 785 名前: 780 投稿日: 2005/05/27(金) 01:07:24 ID:lTgBssS1 という訳で、部長小ネタ「その兆し(仮)」でした 完全に浄化されきった部長ってきっとこんな感じだろうと思いまして…何となく。 では