「ジェンド遅いね」
「この森はあまり食料豊富じゃないみたいだからな、探すのに手間取ってるんだろう」
今夜の野営地が決まったあと、ジェンドは食料を探しに出かけ
十六夜とカイは焚き火の側に座りながらジェンドの帰りを待っていた。
「ふう、しかし結構経ったよな」
大分長い間座り込んでいたため体が固まってしまい、カイは伸びでもしようと起き上がる。
「あれ?」
と、カイは脳がフラリと揺れるような感覚を覚え、倒れそうになる。
どうやら長い時間座りっぱなしで立ちくらみを起こしたらしい。
「カイ!」
倒れそうになるカイを支えようと十六夜が手を伸ばす。
反射的にその手をとるが、十六夜の手を取ることで逆にバランスを崩し、
カイは十六夜の方向に倒れこんでしまう。
手を伸ばして、何とか十六夜の上に覆いかぶさるような形でバランスをとることに成功し、
カイがほっと一息ついた瞬間、後ろでボタボタと何かが落ちる音がした。

カイが後ろを向くと、そこには何かを抱えたような姿勢で固まっているジェンドがいた。
足元に山菜が落ちているところを見ると、抱えていたのは山菜だったのだろう。
そんなどうでもいいことを考えながら、カイはとりあえず声を掛けてみた。
「あの・・・ジェンドさん?」
ジェンドは答えず、腰につけてある剣の鞘を握り締めながらカイに歩み寄る。
その動作に反射的に飛びのきながらカイは叫ぶ。
「ジェンド!?落ち着け!何か誤解してるだろ!」
カイの言葉には一切反応せず、底冷えするような声でジェンドは告げる。
「カイ、私はこれでもお前は人間の中ではマシな方だと思っていたんだが・・・」
スチャと涼やかな音と共にジェンドは剣を抜き放つ。
「私の十六夜に手を出すとは、何か言い残すことはあるか?」
「誤解だぁぁ!!」
「ジェンド、違うよ」
今にも斬りかからんばかりのジェンドと逃げ腰のカイの間に十六夜が割り込む。
「ああ、分かっている。悪いのはお前じゃない、このクズだ」
「だから、誤解だって!俺と十六夜がそういう事をするわけ無いだろう!?」
「ああ、十六夜が私以外とそういう事をするはずが無い」
「・・・ジェンドさん、さり気なくとんでもない事言ってませんか?」
カイの言葉を無視してジェンドは続ける。
「つまり貴様が無理やり十六夜を押し倒したと言う事だ、死ね」
「うわぁあああああ!!!」
カイの絶叫が森に響く。
結局、十六夜とカイが説明して誤解がとけるまで、カイは4回ジェンドに殺されかけた。


「十六夜、今日から一緒に寝るぞ」
「うん!でもなんで?」
「十六夜1人で寝ると危ないからな」
「危ないの?」
「ああ、獣とか変態とかカイとか変態のカイとか危ないからな」
「・・・まだ根に持ってるのか」
ボソリとカイが呟く。
「何か言ったか?」
腰から外して枕元においてあった剣を手繰り寄せ、ジェンドが聞きかえす。
「いや、何も」
「とにかく色々物騒だからな、一緒に・・・」
「・・・十六夜と一緒に寝る理由が欲しいだけじゃうわぁあぁああ!!!」
突然、何処からか降ってきた岩にカイの声と体が潰される。
「さ、寝るぞ」
何故か手の埃を払うような仕草をしながらジェンドが言う。
「うん!なんか一緒に寝るのってドキドキするね♪」
そう言いながら十六夜は嬉々としてジェンドの毛布に潜り込んでくる。
たいして大きくない毛布だ、当然二人の体は一枚の毛布の中で触れ合い、体温を感じ会う。
その感覚にジェンドは顔が火照るのを自覚する。
「?ジェンド、顔赤いよ?どうかしたの?」
「な、何でもない!もう遅いぞ、寝ろ!」
ジェンドは自分の感情を誤魔化すように大声で怒鳴る。
「うん、おやすみジェンド」
「ああ、おやすみ十六夜」

数時間後、何とか岩から這い出したカイが見たのは、
幸せそうに寝ている十六夜と、その十六夜を抱きしめるように寝ているジェンドだった。