「カイ兄さん変わってなかったなぁ…あの頃の、アメのお兄ちゃんのままだった」
 イリアは一人でそう呟いて、くすっと笑う。ここは宿の一室、周りにそのつぶやきを聞いている者は誰もいな
かった。レムもいつもは同じ部屋なのだが、『妖精』というものが気になってしまったらしい十六夜に懐かれ、
今日は十六夜と同じ部屋へ行っていた。
 そう言えば、最近独りの時間なんて久しぶりだった。
 ずっとレムが一緒にいてくれた。辛いときにも、寂しいときにも。自分の辛い心を感じ取って、独りにしない
ようにしてくれていた。
「……ありがとうねレム。ボクは大丈夫だよ…」
 心に浮かんだことを言葉にして確認する。その時…。

 トン、トン。

「あ、ハイちょっと待ってください…あれ?」
 部屋の扉がノックされイリアが慌てて駆け寄ると、そこにいたのは金髪の青年…カイだった。
「やぁイリアちゃん。部屋に入ってもいいかな?」
「別にいいけど…どうしたの?」
「うん?ただちょっとお話ししようかなっと思っただけさ」
 カイは再会してからの印象の通り、明るく愉快だった。けれど逆に何処か、その明るさが作り物のような、本
心の見えない感じがした。
 イリアが招くと、カイは扉を閉めて部屋の中へ入り、室内に一つの椅子に腰掛けた。そしてベッドの上に座っ
たイリアに笑いかける。
「イリアちゃん。旅は楽しい?」
「うん…ボクの知らないことばっかりだし、みんな優しいし…」
「そっか。それはよかった」
 たわいもない会話が続く。イリアはそんなカイの話術に、いつの間にか大切な思い出を話し始めていた。

「それで、シオンってば『助けてもらってやったんだ。ありがたく思え』なんて」
「はは、随分偉そうな感じだね。イリアちゃんもそんなんじゃ大変だっただろ」
 そのカイの言葉に込められているのは確かに優しさや労りだったが、何故かイリアは素直にそれを受け取りた
くない気分になった。分かるはずない、分かって欲しくない、そんな気分になる。
「別に大変じゃなかったよ。シオンは本当はすっごく優しくて頼りになったし、ボクはシオンと旅できて凄く嬉
しかったもん」
 何処かムキになったような言い方。
「そう?でもイリアちゃん優しいからね。色々と苦労しただろ」
「苦労はしたけど…でもそれも楽しかった。全部嬉しかったよ!」
 カイ兄さんがボクのことを思って言ってくれてるのは分かるのに、どうしてボクはこんな言い方をしてるんだ
ろう。カイ兄さんが優しくて嬉しいのに。
 …でも…カイ兄さんは嬉しいけど、カイ兄さんの言うことを認めたら…シオンを裏切っちゃう気がする。
 …そんなのヤダ。
「全部全部嬉しかったんだっ!だってボク、シオンのことすっごく好きだったもん!」
 思ったままを口にして、言ってからイリアは気付く。…理由は分からないけれど、カイ兄さんの瞳が怖い。笑
ってるままなのに、目だけが凍り付いたみたいに…怖い。怖いよ。
「…カイ兄さん?」
 小さく名前を呼ぶけれど、答えは返ってこなかった。言葉では。

 カイは椅子から立ち上がり、ベッドに腰掛けるイリアへ近付いた。そして無言のままイリアの肩をきつく掴み
ベッドの上へ押し倒した。
「カッカイ兄さん?!」
 その突然の行動に、イリアは妙な声をあげてしまう。カイは冷たい瞳で戸惑っているイリアの瞳を一瞥し、無
理やりに唇をイリアの唇に押し当てた。
「んっ…んんっ」
 イリアが何か反応する前に、カイはイリアの口の中に舌を進入させてしまう。イリアは強引に入ってくるカイ
の息と舌に必死で逃れようとするが、カイの体重に押さえ込まれて身動き一つ取れない。
 舌を無理やりからませ、唾液をイリアの口内に流し込む。口の端から溢れるそれに、イリアは仕方なくカイの
唾液を飲み込む。イリアの喉の鳴る音が、カイの耳に残った。
 しばらくイリアの口の中を犯し続け、カイはゆっくりとその口を解放する。イリアは荒い息をつきながら、涙
のにじんだ瞳でカイをじっと見つめた。カイも真面目な目でそれを受ける。
「…カイ、兄さん…どうし…て?」
「…イリアちゃんのせいだよ」
「どういう…」
 口は解放されたけれど、イリアの肩はまだカイに押さえつけられているままだ。自然、イリアは下からカイの
顔を見上げる形になる。
「イリアちゃんが、俺のことを見ないから」
 カイはそう言うと同時にイリアの腕を束ね、片手で押さえつける。そして開いた方の手で上着のボタンを外し
ていく。
「やっ…カイ兄さんやめて!やだ!」
 ボタンを外し終わるとその手はイリアの胸に触れる。包み込むように柔らかな膨らみを揉み、時々中心の赤い
突起を引っ掻くように刺激する。手の動きはそのままに、舌が鎖骨の上をなぞり始める。

「いやっ…何で?何でカイ兄さん、こんなコトするの?!」
 カイはその問いに全く答えずにイリアへの愛撫を続ける。しばらく続けていると、イリアの裸になった上半身
がほんのり赤く染まってきた。鎖骨を舐め続けていた舌を下へ滑らせ、胸の膨らみを舐め上げる。そして胸の先
端を軽く甘噛みした。
「やっ…ぅ…」
 イリアの目からはずっと涙が溢れ続けていた。イリア自身、何に対する涙なのか分かっていなかった。ただ、
後から後から涙が溢れてくる。そんなイリアを見て、カイは意地の悪い笑みを浮かべた。ゆっくりと手をスカー
トの中へ入れる。少し冷たく柔らかな太股に触れる。
「や、だ…」
 カイの行動を拒否する声には力がなかった。涙を流し続け、されるがままになっている。
 太股を撫で、だんだんと指を滑らせる。そして上まで辿り着くと下着の上からイリアの大事な部分に触れる。
「あっ…や、ダメ!」
 それまで呆然としていたイリアの目に光が戻り、必死で身をよじらせて逃れようとする。けれどそんな行動は
何の抵抗にもならず、逆にカイを興奮させて終わった。
「イリアちゃん。どうしてこんなコトするんだって言ったよね」
 布の上から溝をなぞり、カイは言う。
「やだ…やだよっ…」
 イリアは小さな子どものように、顔を歪め泣きじゃくっている。
「やだ、やめて…助けて…」
 初めてのこと。こんな風に誰かを怖いと思ったコトなんてなかった。怖い。助けて。誰か。
「助けて…誰か…レム…ザード兄さん…………………シオン…」
 イリアは掠れた声で名前を呼ぶ。それを聞いたカイの瞳は、暗く冷たい。

「イリアちゃんが俺を見てくれないからって、俺は答えたね」
「イリアちゃんは、ずっと昔から俺が見てたんだ。ザードが連れてる小さな子…あの素直で可愛い子がずっと好
きだった。ずっと俺が…」
「俺のものだ。ずっと昔から俺が見てたんだ。なのにどうして俺を見ない?どうして他のヤツを見て、他の奴を
好きだなんて言って、他の奴の名前を呼ぶ?!」
 カイは悲痛な声で叫び、イリアの下着をはぎ取った。そして大きくそそり立つ自身を取り出し、イリアの秘所
に宛う。ろくに愛撫を加えていないそこに、カイは一気に自身を突き刺した。
「いやあああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!やああっ!!ああっ、うぁあっ!!」
 瞬間体を突き抜けた痛みにイリアは大きな悲鳴を上げた。今まで味わったこともない体を引き裂かれる痛み。
自分が壊れて死んでしまいそうだった。
「やああぁぁっ!!やめて、いや!やだよっ!!」
 密がほとんどなく中はとても滑りが悪いが、それでもカイは体重をかけ最奥まで自身を押し込む。そして抜け
そうになるほどに腰を引き、再び体重ごと突き入れる。イリアのそこからは真っ赤な血が流れ出していた。

「イリアちゃんは俺のものだ」
 熱っぽい声で囁かれ、イリアは嫌悪感に全力で首を振る。そうすればカイの声が自分に届かないような気がし
たのだ。けれどカイはそんなイリアを押さえ、先程と同じように唇を奪う。
「んっ…うう!ぅ、うん…」
 叫び声をあげることすら出来ず、イリアはただ痛みに耐えていた。しっかりと腰を押さえつけていたカイの手
が、胸や繋がっている部分をまさぐり始める。
 何度も何度も体を裂かれる痛みに、イリアはもう声をあげる力もなくしてしまった。涙を流しながらこの時が
早く終わることを祈る。
「……んっ…」
 どれだけたった頃か、イリアがもう何も考えられなくなった頃、熱いモノを中に放ってやっとカイが体を離し
た。イリアは何をする気力もなく、ベッドに倒れ込んだままぼうっと天井を眺めている。カイはそんなイリアに
近付き、愛しそうに眺める。
「イリアちゃん。愛してるよ。他の誰よりも」
「…………」
「イリアちゃんは俺のものだ。俺以外、見ちゃいけないよ?」
 優しく微笑んでそっとイリアの頬に手を伸ばす。そして何度か撫で、額に口付けを落として離れた。
「おやすみ」