肩を並べて戦っていると、こいつが傷を負うのをよく見る。
細い褐色の腕から飛び散る真紅の花火が、地面に斑点を描き、
苦痛にこいつの顔が歪んだ。

その度に。傷を負わせた魔物に殺意を覚えた。


とある日、ジェンドが腕に深い傷を負い、街の病で治療をすることになった。
ダークエルフだと言う理由で疎外しない病院にめぐりあえたのは幸運だろう。
治療を嫌がって、痛がりを表情に少しだけ浮かべ、立ち上がろうとするも、どうやらそれも無理らしい。

それをカイが制止しても、聞くはずもなく。無理にでも押し通ろうと言い争いがはじまれば、
十六夜が泣き出して、その場はおさまる。

結局、夕方になればジェンドも観念したようで、深くベッドに横たわって休んでいた。

安静にしておけば大丈夫、ということで。カイは十六夜と夕食をとることにした。
ジェンドがついていきたげだったが、十六夜の説得でなんなく大人しくなる

「カイ〜…」

暫く、もくもくと食事をしていたカイに、十六夜が雰囲気に耐え兼ねて、弱々しく呼びかけた。

「ん?どうしたんだ、十六夜?」

にこり、と笑顔を浮かべて、少年に向けて。しかしそれはもとから浮かべていたものでなく、
とっさに作った笑顔だった。

「さっきからずっと、怖い顔してるよ〜…?」

はっとしたように目を見開いて。十六夜の言葉で目が覚めたようにいつもの落ち着いた顔へと戻る。
ぽん、と頭に手を置いてなでてやるとくすぐったそうにかぶりを振る十六夜。

「ジェンドのこと、心配?」

ぴたり、と一度腕がとまったことに十六夜は不思議そうにカイを見つめた。

「…まぁ、ね」

自嘲気味な笑みを浮かべ、一番最後のあげじゃがを頬張る。それ以上会話することはなく。


部屋をとった宿へと向かい、制止の際涙を流しつづけ、泣き疲れも含めた疲労を癒すために十六夜は眠る

カイは眠れずに、ぼーっと天井を眺めて…そして、ぎし、ぎしと。この部屋に近づく足音に気が付いた

近寄っていく足音がいやにゆっくりなのを察知して。ベッドから上体を起こすカイ。
バンダナを取って降りた髪をかきあげて、扉へと近づいていく。
ジェンドが居ない今、エストは有り得ない。確実にこちらへと近づいてくる足音が
誰か…少ない選択肢の中、一人の女性が浮んだ。

ぎ、と音をたてて扉が開く。

…はっきり言って呆れた。怪我した手をかばいながらこの宿まで来たコイツに。

「お前…」

人の心配を考えない行動。自分を見ようとせずに反らした表情。どんな顔をしているかはわからないが
でも、悪びれた表情なんかはしないだろう。そんな奴じゃない
苛立っているせいもあり、精一杯怒鳴りつけようとした瞬間、その手によって口をふさがれた

「…十六夜が起きる」

その声を口の中におさめ、振り返ると、大事な人が帰ってきたのにも気づかず、
すやすやと熟睡する十六夜。枕に顔をうずめ、毛布にくるまり。
その姿を1に気遣うジェンドに、怒る気も失せた。

ふわり、ふわりとココアから浮く煙を見つめる目は細められて、暖かさに多少頬がそまっていた。
ランプに揺れる炎に照らされた、整った顔はいつもよりか弱くも見え、艶かしさもかもしだしていた。
美しい色の、化粧を知らない唇がカップの淵に触れるたび、つい目を向けてしまう

「…どうした?」

「ん…」

静かに擦れた声。こうして聞いてみると、綺麗で透き通っている。中性的な、声。

「綺麗だな、って」

カイは自分の思ったことを正直に言う。同じくココアを飲みつつ。
先ほどまで見蕩れていた顔をあえて見ず、平静を装って。
ジェンドの顔はきょとんとして、数テンポおいてから噴きだした

「何言ってンだよ、寝惚けてんじゃ…」

すっとカイがこちらを見つめたと思えば、その顔が偉く真面目で。
青い瞳で見つめられると、不思議と顔が熱くなった気もした。何故かは理解できなかったが。

「寝惚けてない。…ちなみに、本音だから」

その青い瞳は、いつも見ているものとは、同じなのに、なぜか違う気がした。

戦っているときの高揚とは違う。何かわからないもので、ジェンドの心臓の鼓動は早くなっている。
カイはそのジェンドの様子に気づいたようで、かすかに笑みを浮かべる。
カイが、ストレートに言うのは滅多になく、女性を口説くときには歯の浮くような台詞を並べている。
だけれど、こんな真顔で、直球に言うのは見たことが無かった。…それも、自分に。

「…傷、痛む?」

優しい声。ジェンドは、カイが何故ここまで優しくなっているのかがさっぱりわからないでいた。
いつもと違う。そんな感覚だけ。

不意に、すっと頬に手をそえられ、ジェンドはびくりとふるえた。
机がかた、と軽い音をたてて、そのつぶらな瞳を見開き、目の前の青年に
少しだけ震えた、女性特有のか細い声で言葉をつむいだ

「な、んだよ…」

ジェンドとは思えないような声で言われ、カイは少し嬉しい気持ちになった。
普段見せない姿を、見ているのだ。…今自分だけが。

「ジェンド」

名前を呼ばれた次の瞬間、視界がカイで埋まり、唇に、同じ柔らかい感触のなにかが
軽く、触れた

青い光が目の前に映し出されて、頭の中が甘くとろけていく錯覚に襲われた。
唇に感じるものはとても柔らかく、抵抗がなかったと言えば嘘になるが、そこまで嫌悪するものでもなかった
だが、場合と、経験と、相手がアレであったので、すんなりとすむわけがなく、頬を朱にそめながら

「い…ッ、きなり…何すんだッ…おかしいんじゃないのかッ」

最低限押し殺してはある叫びをカイに向けるものの、どうも様子がおかしい。
少しながら、鋭い瞳に、ジェンドは少し威圧される。こういう瞳を見たことは、なかった

「…綺麗」

軽く、そう言葉が流れた。心は篭っているものの、いつものような軽薄な口調ではない。
引き込まれるような美しさを持つ何かを見た時に発される、正直な言葉。
青い瞳は、ナイフのようにつきつけられ、ジェンドの動きをとめていた。

「…カ」

ジェンドの言葉が全て発される前に、ぐっとカイのほうへと抱き寄せられた。
何で、自分がこうなっているのか、ジェンドはいまだ理解はできなかった。
何故、本気で抵抗できないでいるのかも…

半ば放心したまま、そのままベッドへと運ばれてしまう。
本当に、先ほどから、抵抗ができない。
奇妙な感覚。されたことがないこと。不安だと感じるのも、いささか自分らしくない…のに。
…嫌では、ない。

「…んッ」

柔らかい唇が首筋に触れてきた。くすぐったさにぴくりと肩が反応する。
すぐ、隣のベッドに十六夜が寝ているのを見ると、それがわかったのか、カイがベッド間をしきるカーテンを閉める。
カイも十六夜に見られては困るから、なのだが。

口付けられる部分は強めに座れ、赤いあとをその場所に残していく。
くすぐったくて、恥ずかしくて。ぎゅっとシーツを握る手に力が篭った。

「…ぁ…は……」

その回数が増え、位置も段々と下がっていくにつて、ジェンドの吐息が段々熱くなっていく。
普段はバンダナであげてある金の前髪が首から離れ、不思議そうにカイを見上げる。
少しだけ瞳が潤んでいるのは、やんわりとした口づけの愛撫のせいだろうか。

「…少し、失礼」

目があうと、カイが微笑み、言う。ジェンドはその意味が詳しくはわからなかったものの、
この行為の、次の段階なのだろうと…小さく頷いた。

病院着の前をはだけられ、胸の小さくはない褐色の双丘が露出された。
羞恥心からカイの顔を直視することはできず、枕に方頬を埋めるカタチにして目をそらす。

その膨らみをゆっくりとカイの手が包む。はじめは軽く撫でるだけだったものの、
少しだけ力がこもり、やんわりと揉み解すような動作にかわっていった。

「ぁ…んぅ…っ」

頭の中に白いもやがかかって、体中に甘い痺れが駆け巡る。
達者な手つきは何人もの女性に快感を与えてきた証拠で、敏感な部分を熟知しているように
ジェンドの中に眠る快感のつぼみをゆっくりと開花させてゆく…

「柔らかいな…ジェンドの」

「う…るさっ…ぁっ」

耳元で囁かれると、顔がぼっと熱くなる。
言われたことのない言葉、されたことのない愛撫に混乱しつつ、
強気な口調で反抗してみようとするも、無意識にでてしまう艶かしい声に中断された。

「は…ぁっ、やぁ…ん」

手が膨らみを回すように動かされ、余計に快感が大きくなってゆく。
内側から、愛撫をしている青年にに支配されるような感覚に余計背中を押され、じわじわとジェンドの理性が削られていく。