静寂が包み込むアドビスの一室で、シオンとイリアが押し黙って向かい合っている。いつになく強気な表情のシオンに対し、イリアはどこか弱々しい表情をしていた。
「ほら、いつまでじっとしてるつもりだ?」
「う…だって……」
「頑張るってこの前約束したじゃねぇか。」
「それは…そうだけど……いざ目の前にすると……やっぱり……」
イリアはシオンの右手から視線を逸らしがちにポツポツと言い訳を続ける。
「問答無用。ほら、口開けてみろよ。」
意地悪な笑顔でシオンは右手を差し出した。その中には赤味がかった生ぬるいモノが握られている。
そしてその大きさはイリアの恐怖を煽るのには十分すぎる程であった。
「だ……駄目だよ、そんな大きいの入らないよ!!!」
イリアは顔を青ざめて首を横にぶんぶんと振る。
「んなの入れてみなきゃわかんーだろ。」
「わかるじゃないか、シオンのバカー!!!」
イリアは両腕を振り回してじたばた暴れまわるが、シオンはそれを振り切って確実ににじり寄る。
「ほら、口開けろって。一瞬ですむコトじゃねーか。」
「やだったら、やーだー!!!」
と叫ぶや否や、イリアは固く口を結んだ。
「あっ、コイツ!!!」
しかしそんな事でシオンも引き下がらず、無理矢理口をこじ開けて右手に握っていたモノを彼女の口の中に押し込んだ。
「んんっ!?」
途端に口いっぱいに何とも言えない苦味が拡がる。
「…うまいか?」
「んーんー!」
イリアはシオンの質問には答えず、力を振り絞ってソレを口内から追い出した。
「あ、コラ、何てことすんだ!?」
シオンの怒号が飛んだ。
「こんなの美味しいワケないじゃないか、シオンのバカバカバカーーー!!!」
負けじとイリアも大声で反論しながら、シオンをポカポカと殴りまくる。
「オイ、…そんな叩くなよ。イテッ…イテッ……痛いって!」

二人の微笑ましい(?)喧嘩が続く中、床には先刻イリアが吐き出した大きな人参の角切りが転がっていた。