「大丈夫?」

唐突に、そいつは聞いてきた。

「…何がだ?」

「体調。何だか…疲れてない?」

大き目の白いパジャマに身を包んだ目の前の人物は、眉をひそめたまま、俺の答えを待っている。
風呂上りの、まだ乾ききっていない黒い髪に、余計な装飾などない白いパジャマ。見飽きてる客人用の服なのに、何故か新鮮に感じるのは、着てる奴のせいか。何故か恥ずかしくて直視できなくて、視線をそらす。

「自分の家に帰ってきて、疲れてるわけがないだろう?」

「でも、シオン…」

「余計な心配しなくていい、ウリック。お前はもぅ部屋に戻って寝ろ」

自分の家『アドビス城』。広い城内の数ある部屋の一室、自分の部屋の中。
今は何故か、ウリックと二人でそこにいた。


突然、部屋に来て何を言い出すのか。正直、俺にはこいつの行動がよくわからない。
確かに疲れてはいる。『自分の家』といっても、安らぐのは誰もいない書室か、自分の部屋しかないのだし。いきなり城を出たのだから仕方ないのだが、城内での風当たりも強くなった。


…それでも、城を出たことは後悔してないが。


城を出る原因となった、目の前の人物は俺の言った台詞を聞く気もないのか、部屋から出て行こうとしない。
それどころか、笑みを浮かべて俺に近づいてきてる。

何故だろう、嫌な予感がする。

「ね。シオン、いい事してあげる」

「…何をする気だ…?」

近づくウリック。思わず後ろへ下がる俺。
いつもと違う雰囲気が、ウリックが女だと思い出させる。

「ザード兄さんに教えてもらったんだ」

近づいてくる距離。

「…っ、ウリック。早く寝ろ!」

「まだ眠くないよー?」

俺とは正反対に、笑顔のウリック。
鼓動が早くなるのがわかる。背中に汗をかいてるのがわかる。
ウリックの…イリアの顔が数センチまで迫って…


ぼふっ。


俺はウリックに後ろにあったベットに押し倒された。

「……プロレスごっこなら、レムとやれ…」

ふぅ、と深くため息吐いて、上にあるウリックも顔を見る。
怒ったかのように頬膨らまして「違うよ」と言うウリックは、ベットに横たわる俺を跨ぐように上に乗って、顔を近づけてきて。

唇に何かが触れた。
柔らかくて暖かい感覚に、息が止まる。
頭の中が真っ白になって、何も考えられない。
ただ、ウリックの唇の感触があるだけ。

何度か唇をあわせた後、ウリックはさも当然のようにズボンに手を掛けて

「寒かったら言ってね」

と笑みを浮かべ言った。

まったく状況がわからないが、流石にヤバいだろうと下半身に冷たい空気が当たったところで気付いた。

「ちょっと待てウリック!何するつもりだ!?」

「ボク、頑張るね」

まったく答えになってない台詞を言って、俺の足元へと移動してしゃがみこむ。

俺だって年頃の男だと思ってるし、様々な知識もある。
当然そういう本も見たことなるし、知っていた。
が。

ウリックの指が、俺のソレに触れて軽く握る。そして、吐息がかかって、熱いものがソコに触れた。

「…っ」

思わずビクッと身体を震わす。
本で知り想像していたのと、実際の感覚は全然違う。
全神経がソコに集まったかのように、ウリックの舌の感覚だけしか感じられない。
まるでアイスを食べるかのように、抵抗なく俺のを舌で舐め上げていく。

「っ、ぁ…ウリッ…ク」

自分の名前に反応して、ピチャ…と、水音を立てて顔を放すと顔を上げてこっちを見つめる。
眉を顰めておずおずと小声で

「気持ち、よくない…?」

と声を上げる。
実際、初めての感覚で『気持ちいい』とかわからないのだが。
その声が、そこ表情が。何だかとてもいけない事のようで。見たくはなくて。

「…そんな事ない」

少しの間の後、それだけを言った。
口の端に笑みを乗せて、よかった、と呟いて再び顔を鎮めていくウリック。
すっかり大きくなった俺の自身に唇で触れて。唇で甘噛して。唇を開いて。
口内へ、ゆっくりと入っていく男のモノ。それを見ることはできないけど、見れない分、感覚だけがリアルに伝わってくる。

「ふぅ…っ…ん…」

熱くてヌメヌメしてザラザラして。何かの別の生き物のの様に、蠢く舌が唾液と絡まって俺のを包み込む。
亀頭の先端も、裏筋も、付け根も、全てを彼女の唾液で濡らしていく。響く水音が、彼女のくぐもった声が、その行為をますます卑猥なものに感じさせている。
時々当たる歯さえも快感になって。熱い口内と比例するの様に冷たく濡れた髪の毛が、肌に当たるのも気持ちを高ぶらせていく。

「ふ…ぁ、ウリッ、ク…」

顔を高潮させて、息も絶え絶えに声を紡ぐ俺に、ウリックは上目遣いに見上げてコクコクは頷く。
その仕草に、イリアを感じて。今ココで彼女の名前を呼べたら…。抱きしめられたら…。
そんな事を考えてるうちにも、彼女の行為は続いていく。
口の奥まで俺のを咥えて、苦しそうに吸い上げていく。今までで一番の刺激に、ビクンっと大きく身体が跳ね上がって、ウリックの口の中に白濁の液を流し込んでいく。

「…つ…ぁ」
嫌そうな顔もせず、口の中のものを飲み込んでから、身体を起こして俺へと近づいてくる。
「少しはスッキリした?」
無邪気に笑う彼女の顔を直視できなくて、目線を下にやってしまう。口元の唾液と精液の後が生々しく感じる。

「じゃ、ボク戻って寝るねー」
「…あぁ…」

肩で息する俺に手を振って、おやすみと部屋を出て行くウリック。
俺の呼吸の音しかしない部屋の中、まだ冷静に動かない頭で、ウリックの言葉を思い出す。

「いい事してあげる」
「ザード兄さんに教えてもらったんだ」

言葉から察するに、イリアは今の行為をザードに…?
とりあえず今はもう、何も考えたくなかった。